映画『笑えない世界でも』映画の内容からは想像できないぐらい仲良く撮影できた【彩香・谷藤海咲・野村啓介・岡本充史監督インタビュー】

――印象に残っているシーンを教えてください。
谷藤:全部のシーンを鮮明に覚えてるんですけど、最後の方に繁華街をダッシュするシーンは、必死すぎて印象に残ってます。めちゃくちゃ寒くてー4℃とかなので、裸足に薄着で走った時は、この2人しかこの世界にいないんじゃないかなっていう感じになりました(笑)いい意味でアウェイを感じて、周りの目線とか、この寒い中走らされて、時間も遅くてっていう。あの日に限って雪も降ってて、「あ、もう私たちしかいないんだな」って思って走ってた気がします。
野村:あのシーンは岡本さんが自分でカメラ持って、ずっと後ろ向きで走ってるんですよ。
――後ろ向きでもあんなに速く走れるんですね。
岡本監督:そこは監督としてよりもカメラマンとしてなんですけど、撮らなきゃいけない人たちが全力疾走してくるので、フレームアウトさせないように全力で走りましたね(笑)

――野村さんの印象的なシーンを教えてください。
野村:最後の方にある場所で2人と再会しちゃうシーン。工場長は気持ち的に人生諦めちゃって、ゼロになった状態で、2人に会った瞬間の顔をほめてくれた人がいたんです。一瞬のシーンなんですけど、あそこを一発でOKもらえたのはうれしかったなぁ。。。でも、全部鮮明に思い出に残りすぎて、ピックアップしにくいですね。キャストが少ない分、ずっとこの3人でやってたので。
――岡本監督から見てお二人の演技についてこのシーンが印象に残っているという部分はありますか?
岡本監督:基本ずっと楽しいと思って撮ってるんですけど、谷藤さんで言うと、僕が一番好きなのは、優花と凛の2人で、凛の昔についてお話をするシーンがあって、そこは一番覚えてますね。段取りを見て泣きそうになってて、その隣で彩香さんも泣きそうになってて(笑)段取りを1回してから「撮りましょう」って言って終わったぐらいのシーンなんですけど。
野村:僕もちょいちょい岡本さんに「回しちゃう?」「本番行きましょ」って言ってましたね。軽く段取りやったら、なんとなく仕上がってるから、逆にテストやって慣れるんだったら、このままやっちゃおうって言ってやってた気がする。
岡本監督:だからいい意味で、カメラも照明も僕なので、色んなスタッフの都合が少ないのが幸いして、撮っちゃえば撮れるから。メイク直しっていってもメイク部さんいないし、衣装直しも自分たちでやってた分、確かにそれはありました。
谷藤:「あ、これ本番だったんだ」っていうぐらいナチュラルに本番に入ってた気がします。「その流れで行きましょう」みたい感じで。
岡本監督:「その空気があるうちに撮っちゃった方が早いよね」ってできるのは、逆にメリットだったなって思います。あと僕も凛の目が好きです。逆に言うと、目の演技しかできない状況に僕が追い込んじゃったんですけど…(笑)
野村:脚本をいただいて、役は選ばないみたいなことをさっき言ったばっかりですけど、凛の役だったら「ちょっと考えてみる」って言ってたと思う。これは難しすぎると思った。
谷藤:凛の役をできたのは私の中で大きかったです。逆にいい意味で簡単なんですよ。「好き」って伝えるのも、本当に伝えようって思うだけなんで…。これが本当に“伝える”ってことなんだなっていうのを感じられます。

岡本監督:野村さんの印象的なシーンも色々ありますけど、優花と凛が出会う前に、寺田さんが工場の現状を話す時があって、ネガティブな言葉を吐く工場長は好きでしたね。あと、お客さんに言われてハッとしたんですけど、あるシーンで工場長が唯一“悪に転じてない”時間があって、詳しいシーンの内容は言えないですがあそこは好きでした。
――ロケ地の長野県上田市ならではの撮影裏話はありますか?
彩香:私は星を見れなくて…流れ星見逃したんですよ。
岡本監督:見えたよ。星がキレイに見えるころに行ったら見えるんですよ。
谷藤:私も見たよ。
彩香:人生で一度も流れ星見たことがない…。
野村:僕は1人でそばを食べに行って、映画観に行ったりしてましたね。あとロケ地の近辺がすごく景色が良かった。
谷藤:ずっといたかったです。駅の辺りも落ち着きがありながらも、昔ながらのお店もあって、私も空き時間喫茶店に行ってましたね。当時アイドルをしてたんで、ファンの人への特典をそこで作ったり、喫茶店で優雅に過ごしてました。時間がゆっくり進んでいる感じが上田にいると感じられました。
野村:優花と凛が初めて会う居酒屋で、本当にみんなで1回ご飯食べたよね。“美味だれ(おいだれ)”っていう焼き鳥のタレがあって、上田の名物なんですけど、おいしいんですよ。
岡本監督:ニンニクとかが入ってて、通常のタレよりもちょっとだけ深みがあるんです。
谷藤:お土産屋さんにも絶対ありましたね。

――最後に公開を迎えて、これから見に来て下さる方へメッセージをお願いします。
彩香:公開を迎えて、劇場にも行ったんですけど、直接感想を聞いたり、SNSでメッセージを送ってくださる人がいて、劇場公開できて本当に良かったなって思います。この映画に共感する人って多くはないと思うんです。でも、共感することがあれば、この映画が隣で寄り添えるような映画になってほしいですし、みんなの心に残るような作品になっていたら、本当にうれしく思います。
谷藤:公開できないと思っていたので、こんなに時間をかけて公開されることにきっと意味があったのかなって思うぐらい、この期間でこの作品に対してもっともっと愛が強くなりました。公開して観てくれた人の反応を感じられるのが、映画館で上映できることの醍醐味だと思います。それが1つの達成感というか、「誰かに届いたんだな」っていう風に思える瞬間なので、これからそのリアクションも楽しみだし、色んな人に観て欲しいなって思います。
谷藤:“共感”っていうところで、(凛たちと)全く同じ生き方をしてきた人は少ないと思うんですけど、それでもそういう人がいたのであれば、この作品が助けになって欲しいなって本当に思います。共感できない人もきっとどこか「この瞬間分かる」とか、事柄の大小関係なく、「笑えない瞬間あったな」「今日私ってこの世界に1人なんじゃないかな」って思わなかった人は少ないと思うんです。なので、この作品を思い出した時に、そういう日を迎えた時の助けになれたらうれしいですし、自分自身もこの作品を思い出して、優花のような存在を大切にしていきたいなと思いました。色んなことを考えられる作品なので、何度も観てほしいですし、私もこの作品のことをずっと心の中に留めながら生きていけたらいいなって思ってます。
野村:2人は初主演ですし、僕もこれだけメインで映画に出ることもそんなに経験したことがない状態だったので、3人にとってこの映画撮影以降の、自分のお芝居に関するお仕事に影響を与えた作品で、今もそれが僕らの中で生きてるなって思います。3人にとって、何かのきっかけになった作品がこうやって公開できることをすごくうれしく思います。この映画を観た人が身近な誰かを大切にしてあげて、自分のことも大切にできるような気持ちになれたらなと思います。
岡本監督:映画の見方は人それぞれだと思うんですけど、自分が観たものとして終わる映画と、明日以降の自分に対してちょっとでも乗っけてくれる映画が僕は好きです。自分が変わる瞬間、観ていて自分の思考に影響を与えてくれる瞬間が気持ち良い映画が好きなので、この作品もそう思ってくれたらうれしいです。
公開してから感想をいただくなかで、「この映画を作ってる岡本は繊細だよね」って言葉をいただいて。今回の映画を観て響く方って繊細な部分がある方なんだなって気づいたんですよね。繊細さをお持ちの方って、本当は素敵なはずなのに、傷つくことが多いと思うんです。人に理解してもらえない、小さな違いに悩んでいる人にも、「それでいい」って思ってほしい。あなたが今、目の前で抱えてる悩みに対して、「大丈夫」って言ってくれる人が1人はいるから、ということが伝わってほしいなと思います。

映画『笑えない世界でも』池袋HUMAXシネマズにて絶賛公開中
【出演】
彩香 谷藤海咲
松岡亜依 藤崎朱香 林隼太朗
野村啓介
【スタッフ】
監督・脚本・撮影・編集:岡本充史
音楽:横関公太
製作:加藤幸二郎 製作統括:長濱薫
エグゼクティブプロデューサー:佐藤悌 プロデューサー:渡邉浩仁
2025年/日本映画/86分/カラー/ビスタサイズ/5.1ch
配給:フリック
【彩香(さやか)Profile】
2002年愛知県生まれ。MBSドラマ特区『少年のアビス』(22)でドラマデビュー。日本テレビ『あいつが上手で下手が僕で シーズン2』(23)、CBC『民宿のかくし味』(23)、テレビ東京『私の町の千葉くんは。』(24)、10月18日スタートのABC(関西ローカル)『修学旅行で仲良くないグループに入りました』などに出演。映画『笑えない世界でも』では、第10回賢島映画祭 主演女優賞を受賞。
【谷藤海咲(たにふじ・みさき)Profile】
1999年東京都生まれ。15歳でアイドルグループ・KissBeeに加入、約8年間活動し2023年に卒業。映画『春待つ僕ら』(18)、NHK連続テレビ小説『おむすび』(24)、舞台『not only you but also me』(24)、舞台『昨日の月』(25)などに出演.。Z世代による共感マーケティング会社「zzz.inc(ねむインク)」の代表取締役も務める。
【野村啓介(のむら・けいすけ)Profile】
1975年茨城県生まれ。福田雄一率いるブラボーカンパニー所属。ドラマ『勇者ヨシヒコと導きかれし7人』(16)、Official髭男dism MV『ミックスナッツ』(22)、映画『散歩時間~その日を待ちながら~』(22)、映画『悪魔がはらわたでいけにえで私』(24)、映画『アンダーニンジャ』(25)などに出演。
【岡本充史(おかもと・あつし)Profile】
1986年兵庫県生まれ。株式会社日テレアックスオンに入社。ドラマ、ミュージックビデオなどの演出を担当。日本テレビ『あいつが上手で下手が僕で シーズン1/2/3』(21/23)演出、CBC『⺠宿のかくし味』(23)監督・脚本、日本テレビ『真夜中の社内恋愛 #3』(25)ドラマ部分監督、FANY:D配信の縦型ショートドラマ『make up xxx〜美しきサレ妻メイクの逆襲〜』(25)監督。
10月17日(金)公開の映画『笑えない世界でも』監督・脚本・撮影・編集を務める。今作は、ドイツハンブルク⽇本映画祭 審査員賞ノミネート、第10回賢島映画祭 準グランプリを受賞。











