映画『笑えない世界でも』長野県上田市-7℃の撮影エピソード&サブタイトル「共感する人がいませんように」に込めた思いとは?【彩香&岡本充史監督インタビュー】

俳優の彩香(さやか)と谷藤海咲(たにふじ みさき)がW主演を務める映画『笑えない世界でも』が、10月17日(金)より池袋HUMAXシネマズにて公開する。本作は、ドラマ『あいつが上手で下手が僕で シーズン1/2』(日本テレビ)、『⺠宿のかくし味』(CBC)などの演出も務めた、岡本充史監督が監督・脚本・撮影・編集を務めた映画。今回W主演の1人である彩香と岡本監督に、撮影中のエピソードから、技術面でのこだわり、また本作は自主(制作)映画からスタートした作品だが、そんな自主制作ならではの楽しさなど話を聞いた。
【『笑えない世界でも』あらすじ】
いじめの被害者から一転、ある事故で加害者となり、家族から見放され鬱々とした気持ちで町工場で働いている“ぼっち”の川本優花(22)は、ある日、“ぼっち”になってしまった水川凛(21)と出会う。
理不尽でどうしようもなくて逃げ場がない日々が続く中、優花と凛の静かな会話とともに 二人の距離は近くなり、諦めから希望に向かって少しずつ動きだしていく―――。

――今作を制作するに至った経緯を教えてください。
岡本:元々映画を撮りたくてこの業界に入ったので、「もう撮ってしまおう」という所がスタートではありました。自分でカメラとマイクを買って、YouTubeにお芝居をアップするようになりました。その時にたまたま、2022年の『24時間テレビ』ドラマで長野にロケに行って、そこで『信州上田フィルムコミッション』(国内外の映画・映像作品の製作支援等を行い日本の撮影環境の発展に寄与することを目的とする団体)の方と接点が生まれました。今回脚本を書く前に、(長野県)上田市で撮影をさせてもらえる場所を拝見させていただく中で、(映画の中に出てくる)工場をご紹介いただきました。そこから他の場所も含めて、見えてくるものがありました。
――優花と凛が出会うストーリーはどうやって生まれてきましたか?
岡本:元々僕が『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』という映画が好きで、物理的、精神的に人より劣った人が、何かのきっかけで誰かと出会って前に進むお話が好きという傾向があるのかもしれないです。

――彩香さんを主演に抜擢した理由は?
岡本:YouTubeにアップしている短編で初めて彩香さんとご一緒したときに、とってもお芝居が素敵な方だなと思いました。優花に関しては当て書き(特定の俳優を主役と決めて、その人をイメージして脚本を書くこと )なんです。彼女が自主映画に対してもご理解があって、一緒にやってくださる中で、この方が主役だったら色々と背負ってもらって脚本を書けるなと思いました。
――彩香さんは初めて主演のお話を聞いた時はいかがでしたか?
彩香:私も事務所に入って1年ぐらいだったので、めちゃくちゃびっくりしました。その前に(作品を)一緒にやっているとはいえ、「主演!?」と驚きました。でもうれしいことなので頑張ろうという気持ちでやらせていただきました。

――脚本を読まれた時はどんな感想でしたか?
彩香:岡本さんが書く脚本は本当に“優しい”んです。細かい心情がすごく好きだったので、スッと入ってきました。
――優花を演じる上で意識したところはありますか?
彩香:外見はガサツ感を出したかったので、小物でタバコとかもあったんですけど、靴(のかかと)を踏んで履いてみたりしました。工場長と凛との対比や、声の使い方も意識していました。内面の部分は全く作り込んでなくて、素直に優花と向き合いました。
――HPに書かれているコメントの「優花の一番の理解者でありたい」と書かれていたことを思い出しました。
彩香:何に対しても人の気持ちを考えることが好きなので、役の一番の理解者・代弁者になることは、役者をやっている上で一番大事にしています。
――優花の好きだった所は?
彩香:家族とか、仲が良い人、ちゃんと心をさらけ出せる人がいなかったけど、少しずつ凛の強さに惹かれて、人のことをちゃんと見て、信じられる心が好きだったのかなと思います。

――撮影をする上で大事にしていたことを教えてください。
岡本:役者さんがお芝居をできる環境を作ることが監督の仕事だと思っています。極端な話をすると、(撮影するシーンとは)違うテンションの方がいたら、その方は少し外していただき、お芝居に集中できる場所と時間を作ることをいつも気にかけています。
――岡本さんが作る現場の空気感はいかがでしたか?
彩香:すごくやりやすかったです。あるシーンで「待ってる時の間がいいね」って言ってくださったんです。そういう言葉遣いとかでこっちもやりやすくなるし、信頼できるので安心してできました。
――撮影も岡本さんが担当されていますが、技術面でこだわった部分を教えてください。
岡本:ロケ地のおかげですけど、 “引き画”がいけるって思ったんです。工場、電車、駅舎一つとっても、(W主演の)2人がお芝居をちゃんとしてくれてるので、ただただ見れるというか…。素敵な場所で撮影するということは風景も込みの作品になるので、意図的にそういうカットを増やしています。

――撮影中印象的だったことはありますか?
岡本:めちゃくちゃ寒いんですよ。夜はー6~7℃とかで、僕はカメラのフォーカスをやってるので手袋もできないし、役者の2人も薄着だったので、寒い中根性で頑張りました!(笑)
――岡本さんの演出で印象的なことはありますか?
彩香:演出とは違うかもしれないんですけど…私がずぶ濡れになるシーンがあって、一緒に濡れてくれるんですよ。私も寒いですけど、岡本さんが一番寒いと思うんです。さっきも岡本さんが言ってたんですけど、根性がすごい!(笑)照明とかも全部一人でやっているので、そういう部分は本当に尊敬します。
――岡本さんから見て、彩香さんのお芝居はいかがでしたか?
岡本:彼女のお芝居は見ててずっと楽しいなって思うんですよね。全力で優花と戦ってくださってるのを感じるので、目の前の人が頑張ってくれてるとこっちも頑張らなきゃと思うので、全力でやってくださる方には、同じ目線・同じ熱で立ちたいと思っています。僕は彼女のお芝居は日本一を獲れると思っています。