吉田都版『ジゼル』が世界へ跳ぶ 新国立劇場バレエ団、ロンドン公演へ──英国ロイヤル・オペラ・ハウス公演記者会見より──
2025.7.25 15:00
2025年7月24日から27日にかけて、新国立劇場バレエ団が英国ロイヤル・オペラ・ハウスでロマンティック・バレエの傑作『ジゼル』を上演する。芸術監督・吉田都による演出作品としては、2022年の初演を経て、さらに磨きをかけての海外公演となる。英国ロイヤル・バレエ団で長年プリンシパルとして活躍し、名実ともにこの劇場の顔のひとりであった吉田にとっては、まさに“ホーム”への凱旋。指導者としての成熟と日本の精鋭を率いて挑む初の英国ロイヤル・オペラ・ハウスでの公演は、バレエ団にとっても新たな飛躍の節目となる。

吉田都芸術監督:
7月に入りまして、いよいよロンドン公演が近づいてきたところですけども、木下代表にお越しいただき、この場をお借りして御礼申し上げます。本当にありがとうございます。経済的なサポートだけではなく、親身になって助けてくださいました。
Q:ロイヤル・オペラ・ハウスでの公演は長年の思いだったんでしょうか
吉田都芸術監督:
遠い夢として、最初はダンサーたちの立場として考えていて、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に立ったらどんなことが起きるんだろうとか、どういう風に感じるんだろう、どういう風に生かされるんだろうなと、舞台に立ってもらえるといいなと夢を持っていました。、監督として立つと違う欲が出てきて。私が言っていいのか分からないですけど、世界レベルだなと。そしたら世界中のみなさまに見てもらいたいと思いました。新国立劇場バレエ団は、歴史も浅くなかなか知られていないバレエ団ですので、海外公演を機に知っていただけたらいいなと思っております。劇場としても今回勉強になりましたと言いますか、現地のプロモーターお願いしましたが、自分たちですべてやろうと一からやりましたので、そのノウハウは劇場の財産となりました。今回劇場のみなさん大変だったと思いますが次につながると思います。
Q:今回の演目が『ジゼル』ですが、2022年の初演からの変化はありますか
吉田都芸術監督:
初演の時は作り上げるのにエネルギーを使いましたが、今回は振り付けもはいっているので、より演じる部分にもっと掘り下げられた気がしております。幕が開いたときに、美術ですね、舞台セット、衣装、総合芸術として良い作品が出来上がったなと時間が経ったことで感じられました。イギリスで学んできた演劇性の高いブリティッシュスタイルを継ぎながらも新国立劇場バレエ団に合う作品に仕上がったと痛感しました。
Q:新国立劇場バレエ団らしさとはどのように感じていますか
吉田都芸術監督:
新国立劇場バレエ団のキャラクターに合うなと感じているんですけども、繊細な表現だったり、コールドバレエ(群舞)もチャレンジングなフォーメーションになっています。(ステージング・改定振付を行った)アラスターさんがこのバレエ団に合うものを作ってくださったので、コールドバレエが堪能できる作品かなと思います。
Q:それほど日本のコールドバレエはレベルが高い?
吉田都芸術監督:
高いと思います。ただ気になるのは機械的にならない。揃って同じタイミングでというのは心は動かされないので、ひとりひとりがストーリーを伝えないといけない。再演時には、1幕は村人や貴族として、2幕は死後の世界とコントラストが仕上がったと思います。

Q:ロンドンで、どのように観てもらいたいですか。
吉田都芸術監督:
新国立劇場バレエ団の良さを見てもらえたらいいなと。日本と英国の架け橋になれたらいいなというところもあります。

Q:ロイヤル・オペラ・ハウスで踊ることについて、今の気持ちを教えてください。
ジゼル役 米沢唯:
実感が全くないです。私はイギリスに行ったこともありません。(ロイヤル・オペラ・ハウスがある)コヴェントガーデンというと、私の中では、幼いころに見た映画「マイフェアレディ」に出てくる、小さいころから見ていたバレエのビデオの場所というイメージが合って、どこかおとぎ話のようで、そこで私がそこで踊るというのは夢のようです。スーツケースを買ってみたものの、本当に行くのかなと。準備はしているものの本当に行くのかなと毎日思っているのですが、こうしてみなさんの前に立つといよいよ行くんだなと、ちょっとドキドキしてきました。
アルブレヒト役 井澤駿:
楽しみで仕方がないのが一番です。この機会を作ってくださった吉田監督、木下代表、スポンサーのみなさまありがとうございます。
ダンサーにとったらロイヤル・オペラ・ハウスで踊るなんて奇跡というか、夢のようなことなのでプレッシャーもたくさんありますけど、『ジゼル』の作品とアルブレヒト役を表現していけたらなと思います。
Q:少し前にご病気で舞台から離れる時期もありましたが、4月の『ジゼル』で全幕復帰しましたが、特別な思いがあったんじゃないでしょうか
米沢唯:
一時期は本当に踊れないかもしれないと思ったことがあって全幕は無理かもしれないと覚悟を決めた時期がありました。1年たってみるとこうして私の好きな『ジゼル』で全幕復帰し、ロイヤルで踊ることが出来るのは嬉しいです。こんなに嬉しいことはあるんだろうかと。感謝を胸に精いっぱいの踊りが出来たらと思います。
体との向き合い方は一から見直しました。呼吸、水分の取り方、睡眠、踊り方もそうですし、舞台の踊り方、精神の持って生き方を見直して、これで何かあったら仕方ないと腹をくくって出ていきました。出る前に吉田監督の顔を見たら涙が出てしまって、2人で少し泣いてしまいました。私にとって、新国立劇場の舞台は、大切で、大切で、かけがえのないものだと感じた日でした。
Q:ジゼルという役柄に対して変わったものはあったんでしょうか
米沢唯:
元気すぎたり、か弱すぎたり、ジゼルがどういう少女なのかつかむのが難しかったのですが、今回はすっとは入れました。“踊りたくて踊りたくて仕方がない少女”というのは自分とリンクして役に入れたなと思います。
吉田都という素晴らしいダンサーを愛したロンドンで踊って、新国立劇場バレエ団というバレエ団も愛してくれたらいいなと思うので、出来る限りのことをしたいなと思います。
演出が非常に演劇的で、普段の生活の延長線上にあるような動きが多い作品だと思っていて、だからこそ自分の身体の動きで嘘がつけない、心の動きが如実に出るというか、正直に出てくる作品だと思っています。ジゼルを演じることに対して、恐れを抱いていた時期もありましたけれども、今はこの役に向き合って一緒に歩いている感覚で、すごく幸せです。

Q:海外の舞台で踊るのは初めてですか?
井澤駿:
海外で踊らせていただくのは初めてです。お客さんの反応が海外だとどうなのかなとか、表現し方やたたずまいも変えないといけないのかな?など考えながら練習に取り組んでいます。自分の感情をどう表現するかは反応を見てやりたいと思います。一緒に感じて踊ってみたいと思います。
Q:ロンドンのお客様からどんな反応があったらいいのか、目標は?
吉田都芸術監督:
ロンドンでは、日本ほどあたたかくないことも多いです。ロイヤル・バレエ団にいるころ、ゲストダンサーとして日本で踊った時に、日本のお客様のあたたかさに驚きました。一方ロンドンのお客様は、感じたままに反応されるので、途中でもよければ反応するし、声も出るので、そういう反応が見られたらいいなと思います。ダンサーに楽しんでもらいたいです。場所が変わって環境が変わると、力が加わると思いますが、とにかく楽しんで、演じていることをより楽しんでもらいたいなと思います。2月にロンドンに行った際に、新国立劇場バレエ団はまだ知られていないバレエ団なので一生懸命宣伝のために取材を受けたのですが、「楽しみにしているよ」と「応援しているよ」と、みなさんあたたかく迎えてくれました。その方々から舞台の評価として、辛口の評価が出たとしても、それは受け止めます。真摯に向き合っていい舞台をお見せすることが目標です。
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今回の記者会見を通じて、海外公演に懸ける登壇者たちの熱い思いが余すことなく語られた。とりわけ吉田都芸術監督の言葉には、芸術への誠実な姿勢と、支えてくれる人々への深い敬意がにじむ。その姿勢は米沢唯、井澤駿といったダンサーたちにも確かに受け継がれている。ロンドンの舞台に立つその一歩は、新国立劇場バレエ団にとって、日本のバレエ界にとって、大きな意味を持つ旅の始まりである。さらなる飛躍が、今から楽しみでならない。