宮藤官九郎×水田伸生監督スペシャル対談2 「敏感な俳優たちは一瞬で細胞がよみがえる」映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』制作スタッフの願掛け

2023.10.21 15:00

2016年に日本テレビ系列で放映され連続ドラマ『ゆとりですがなにか』が、7年の時を経て映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』として帰ってきた。「野心も競争意識も協調性もない」と揶揄(やゆ)された“ゆとり世代”も30代。アップデートされた時代に巻き込まれながら奮闘する姿を、ドラマの主人公を演じた俳優の岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥らも同じ時を経てスクリーンに挑む。脚本を担当した宮藤官九郎と水田伸生監督は映画に何を託したのか。お二人に話してもらった。(対談の様子は「その1」はこちら

■座布団1枚からセットも衣装も全部残っていた

―― 連続テレビドラマ『ゆとりですがなにか』の翌年、スペシャルドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』とスピンオフドラマ『山岸ですがなにか』が放送されましたが、その後6年を経ての映画化です。ブランクを超えるためにどのように準備をされましたか?

宮藤官九郎(以下、宮藤) 今回、あえて(ドラマを)見返さずに本(脚本)を書いたんです。見返すことで同窓会っぽい感じになるのは嫌だなと思って。自分が無理にドラマの『ゆとり~』の世界に合わせて書くと、なんだか不純な気がして。今頭の中にある坂間正和(岡田将生)、山路一豊(松坂桃李)、道上まりぶ(柳楽優弥)の3人の感じで書こうと思ったのが、結果的に良かったなと思っています。

―― 制作発表などで俳優の方々から、映画化を知った際、喜びと同時に「戻れるか不安だった」という声も聞かれました。

宮藤 彼らが「これこれ!」って感じるものを提示したかったというのは、もちろんあるんですけど、それは戻らなくてもできるんじゃないかなと思って、そうしたんだと思います。たぶん主人公の3人が、いや3人を含めた全員が、それぞれでちゃんといい仕事してここに戻ってきていると思うので、それはそのまま生かしたい、その時間の分も映像に残したいと思っていましたね。
水田伸生(以下、水田) 制作スタッフもね、カメラや照明は映画の布陣で撮ったのだけれど、美術は連続ドラマの時のスタッフにしたんだよね。なぜかと言うと、ドラマ『ゆとり~』のセットを彼らが保管していたから。
宮藤 すごいことですよね。
水田 彼らは続編を作りたくてしようがなかったんでしょうね。セットが残っているということは、装飾部も座布団一つまで全部残しているってこと。食器も、仏壇も全部とってある。衣装部も、衣装を全部保管していた。そんなのを見せつけられたり、衣装合わせで身に付けたりしたら、ものすごく敏感な俳優たちは一瞬で細胞がよみがえるよね。なおかつ共演者がフルでそろっているとなると、体が反応するってことだよね。
宮藤 (制作スタッフは)いつか続編をやるって思っていたんですかね。
水田 きっと、願掛けみたいなものですよ。
宮藤 残しておいたらやるんじゃないかって? それもすごいと思う。
水田 美術倉庫って限りがあるから、適宜廃棄しなきゃいけないんだけど、別にお金を払ってでも残そうとしていた。その意欲たるや、すごかったですよね。
宮藤 直接的なこともそうですけれど、そういうところが役者さんはうれしいですよね。
水田 うん。制作スタッフにとって『ゆとり~』は、ビジネスライクじゃなかった。それ以上だったってことですよ。

■『ゆとり~』だけど、すべての世代が描かれている

―― 演出では、映画用に特別にされたことはありましたか?

水田 ないですよ。ただ、テレビよりもコメディーの味付けを少し濃くしていますね。テレビは、生活空間の中で見るもの。もちろん一人で見る方もたくさんいるでしょうけど、子どもと母親が一緒に見ている場面も頭に描きながら作るので少しマイルドにします。放送時間帯のことも考えたりね。

―― 映画では昭和世代もドラマより深く描かれていた気がしました。

宮藤 山路の設定を学校の先生にしたからだと思うんですけど、『ゆとり~』は子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまでちゃんと入っているんですよ。例えば子どものほうが理解が早いとか、お母さんのほうが割り切っているとか。無意識に書いている部分はあると思いますけどね。
水田 酒蔵の設定がよかったね。3世代同居だから。
宮藤 そうですね。
水田 職人さんも含めるともっと(広い世代)だけど、それが不自然でなく表現できる。今のホームドラマで3世代同居にすると、逆に特殊になってしまうでしょ。“酒蔵”がものすごくうまく機能したかな。

© 2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

■一貫して「世代でくくるのはナンセンス」

―― 坂間正和(岡田将生)が酒蔵を継ぐ設定は、最初からあったのですか?

水田 いやいや、構想を練る段階での取材でですよ。
宮藤 (ゆとり世代に延べ100人以上)取材をしている中でたまたま、脱サラして実家の酒蔵を継ぐっていうゆとり世代のサラリーマンの方がいたんです。取材をするうちに「酒蔵っていいな」って思って。
水田 20代でね。
宮藤 彼は自分がゆとり世代だってことを自覚して、ゆとり世代のお酒をつくっていたんです。ゆとり世代の農家でつくったお米と水と、全てをゆとり世代だけでまかなっていて、『ゆとり~』のドラマのためにやってくれているぐらい(笑)。YouTubeもやってましたね。それに酒蔵って、古いものにも自ずと触れられる。
水田 そう。(酒蔵は)ものすごく歴史のある仕事だからね。

―― そんな歴史や多くの世代を背景に『ゆとり~』で伝えたいこととは何でしょうか。

宮藤 水田さんもおっしゃっているけど、「世代でくくるのってナンセンスですよね」っていうこと。結局そこでしたよね。
水田 うん。
宮藤 俺ら別になりたくてこうなっているわけじゃなくて、学校の教育制度が変わった節目にたまたまいて、土日休みになっちゃって、詰め込み式じゃなくなって。なのに、闘争心がないとか競争していないとか言われて、「しょうがないね」って言われて……「そんなことねーよ」って。それが、ドラマの1話から一貫してあった気がしますね。
それが今度の映画化では、ゆとり世代が誰にも甘やかしてもらえない状態になっている。下の世代がでてきちゃってるからね。さらに下のZ世代の人たちのことも理解できないしって中で、でもゆとり世代は先に行けるというところかな。
映画もドラマも都度、言いたいことが変わるんですけどね。
(対談の様子は「その3」に続く)

『ゆとりですがなにか インターナショナル』
全国東宝系にて公開中
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 仲野太賀 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
監督:水田伸生

写真:© 2023「ゆとりですがなにか」製作委員会
©entax

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