前田公輝単独インタビュー 「セリフ量、表現方法のバリエーション、体力面、歌と、挑戦だらけ」究極の心理劇『スリル・ミー』で目指すもの

2023.9.7 14:00

1920年代に実際に起こった伝説的犯罪を土台とする緻密な心理劇『スリル・ミー』。舞台に立つのは二人の役者とピアニストだけ。ピアニストが奏でる強烈な旋律にのせて、二人の歌と演技がぶつかり合う100分間の舞台であり、世界各国で上演が相次いでいる。日本でも2011年の初演を皮切りに、2012年、2013年、2014年、2018年、2021年と再演を重ね、2023年9月にさらに進化して上演されることになった。今回、「私」と「彼」という出演者の中で「彼」を演じる前田公輝に、このスリリングな舞台に挑む心境を語ってもらった。

■胸が苦しくなるくらい、感情移入をした作品

――ミュージカル『スリル・ミー』は舞台に2人の役者とピアニストだけ、ノンストップ100分の舞台ということで、すごい作品に挑まれますね。

自分にとっては最多のセリフ量であり、二人芝居なのですごく体力を使うと思います。ミュージカル自体も2本目なので、すべてにおいて早めに準備をしなくてはいけないな、と考えています。

――前田さんは過去に上演された舞台をご覧になった際の感想として、「圧倒的に曲がった自尊心と普遍的な愛に強烈な印象を受けた」とコメントされていましたが、当時のインパクトについて、詳しく教えていただけますか?

初めて観劇した時、僕は胸が苦しくなるくらい感情移入をしてしまいました。「なんだろう? この舞台は」という衝撃を受けて。すごく見たくない、聞きたくないのに、すごく見たいし、聞きたいという、自分の感情と欲求が矛盾している状態に陥ったんですよ。だから今回、僕もそういう舞台を作ることができたらいいな、と思います。

――1920年代にアメリカで実際に起こった凶悪事件を基にしている心理劇ということですが、前田さんは『スリル・ミー』はどんな作品だと解釈していますか?

演出を手掛ける栗山民也さんは、今までのキャストの方々にキャッチフレーズのようなものをつけていたそうなんです。僕は願望として、いろいろな捉え方ができるキャッチフレーズがつくようなペアになれたらいいな、と思っていて。それぐらい、いろいろなテーマがあるような気がしています。

――観劇された時はお客さんという立場でしたが、今度はご自身が演じる側ですね。

当時はミュージカルの歌はセリフだと思っていなくて、純粋に歌だと思っていたんですよ。その後、初めて挑んだミュージカル『ロミオとジュリエット』は衝撃の連続でした。「そんな声の出し方があるんだ」とか、「声ってそこから出るの?」「そんな体の連動の仕方があるの?」といったことを知りました。

そういった知識を得たうえで体になじませないと、演じる時に出てこないんですよね。正直、『ロミジュリ』の時は反映しきれなかった部分が少なからずあったのですが、そこから少し時間が経って、自分の中では体得できたところもあるので、その部分を生かさないといけないな、と感じています。

――でも前田さんの「ミュージカルの歌はセリフだと思っていなかった」という感想は、おそらくミュージカルを見慣れていないと、同じ気持ちを感じると思うんです。ミュージカルを知らない人にミュージカルの歌の役割を伝えるとしたら、どうやって説明されますか?

ディズニーが一番わかりやすいと思います。ディズニーの歌はストーリーじゃないですか。僕は今、ディズニーに夢中で、実はミュージカルをやりたいと思った理由もディズニーだったんです。だからミュージカルの入り口としては、すごいいいと思います。

――前田さんがミュージカルへ挑戦するきっかけは、ディズニーだったのですね。

コロナ禍でディズニーにハマり、そこで歌にお芝居をのせるということをやってみたい、と考えたんです。好きになると自分も表現してみたくなるのは、役者の“あるある”だと思います(笑)。

■ミュージカルの見せ方には、経験値が絶対に必要だと思う

――今回はピアニストが舞台にいて、楽曲もかなりドラマティックな難曲が多いと思うのですが、歌についてはいかがでしょうか?

すごく心躍るというか、思わず口ずさんでワンフレーズ覚えてしまうと感じました。あと、似ている曲調のものも多くて印象に残りやすいから、その点はお客様にとって良いのではないかと思います。

ただ演じる側としては、とても難しいと思います。曲を覚える時に、一緒になってしまう時があるんですよ。意味までしっかりと落とし込まないと、混乱してしまう危険性があるので。おそらく、体で表現したら大丈夫だとは思うのですが。

――また100分という時間は体力的な課題だとおっしゃっていましたが、イメージ的には長距離を走る感じでしょうか?

まさに長距離のイメージです。だから本当にシンプルに、走り込みをしなくてはいけないと思っています。舞台の前に行っているルーティーンも、だいたい2週間前くらいから始めるのですが、今回は1ヶ月前から始めようかな、と思っています。

――『スリル・ミー』はこれまで何度も上演されていますが、他の方の演技はどのくらい参考にされますか?

ミュージカルの見せ方には、経験値が絶対に必要だと思っているので、いろいろな資料をいただいておいて、いったん自分の中でプランが固まってから、その資料を見たいと思います。その中で「この方は、こういうアプローチをしたんだ」といったように、吸収させていただいて。声の出し方とか、「この人は、こんな寝そべりながら歌えるんだ。そうしたら、たぶんどこかに力を分散させているんだな」など、分析のために見ておきたいんです。そして稽古が始まったら、いったんすべて忘れようと思っています。

■演じる「彼」という役に対して感じるのは「弱さが垣間見えるかわいさ」

――今回、前田さんが演じられるのは「彼」という役ですが、演じるうえで、どういうところにこだわりたいと思われますか?

やはり若さが出ればいいな、と思います。まだ先が見えていない若者の高圧的な態度とか。「彼」のかわいいところは、すべて見下して、自分が超人だと認識しているところだな、と思っています。

――かわいいところですか?

はい、かわいいと思っています(笑)。一つのことに執着して、自分の中で自己分析をして、自分の中で答えを出していく。確かにそういうことは、自分も若い時にあったと思っていて。「あの人のこういうところがかっこいいから、真似しよう」と考えたりするんだけれど、意外とその人の本質を見てみると、実は違ったりする。でもかっこいい部分だけを自分の中で増幅させて美学にする、みたいな感じですよんえ。そうでないと、生きられないという弱さがある。それは、すごくかわいくないですか? だって本当は強くないのに、ずっと強がっているんですよ。

――いわれてみれば、かわいいところがありますね。

僕は逆に「私」が怖いですね。僕が「彼」を演じるからこそ、今そういう感覚になっているのかもしれないですけれど。一見、「私」の方がかわいいと思うかもしれないのですが、台本を読めば読むほど、まったくかわいくないです(笑)。ただ、友人としては「私」のような存在は欲しいな、と思います。

――「彼」のそういったかわいい部分は、演技のどこかににじみでるのでしょうか?

いいえ、かわいい部分は出なくていいな、と思っています。キャラクターの19歳という年齢は、それほど説得力のない世代ですし。全体を通してみたら、「彼」は支離滅裂、矛盾だらけで何も筋が通ってないことばかりなんですけれど、発する一言一言に、「そうかもしれない」と思わせる力が必要なので。「かわいい」という気持ちは、ただ僕が思っているだけでいいかな、と思います。

やはり「私」がハマってしまう存在感を出さないといけないので。「私」と「彼」は離れている期間もあって、その時には「私」にもいろいろな出会いはあったわけですよね。でもやっぱり、「彼」じゃないとダメだという気持ちになっていたわけですから。

――今回、非常にヘビーな作品に挑むにあたって、ご自身はどういった力を身につけたいですか?

セリフ量、表現方法のバリエーション、体力面、歌……と、本当に挑戦だらけだと思います。おそらく『スリル・ミー』を終えた時には、いわゆるファミリー的なヒューマンドラマなどでも、言い方一つから変わっていくんだろうな、と思います。

【前田公輝 Profile】
1991年4月3日生まれ、神奈川県出身。1997年、ホリプロ・インプルーブメント・アカデミーに第1期生として入所。2003から06年までNHK教育テレビ『天才てれびくん MAX』でてれび戦士として3年間出演。2008年、映画『ひぐらしのなく頃に』で映画初主演して以降、日本テレビ『ごくせん』など多数の映画やドラマに出演。22年はNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』、映画『HiGH&LOW THE WORST』などにも出演し話題になった。

【ミュージカル『スリル・ミー』】
出演者はたった2人。“私”と“彼”、そして1台のピアノ。全米を震かんさせた2人の天才による驚がくの時間を基にした作品。緊迫した空間で繰り広げられる心理戦。強烈な旋律の頂点に向かって走る100分間。

写真:©entax

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