ジャニーズJr. 大東立樹 初主演のミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』で変貌する

2023.6.13 11:00

「韓国のミュージカルはすごいらしい」。ここ数年そんな声を多く耳にする。豊かな表現力で魅せる独特な世界感と歌唱が圧巻なのだ。しかしハングル語の舞台を理解するのはハードルが高い、と尻込んでいたら今年、韓国で大ヒットしたミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』が日本に初上陸。主人公のダーウィン・ヤング役をジャニーズJr.の大東立樹と渡邉蒼がWキャストで担い、2023年6月7日に開幕した。初日前日に行われた、大東立樹版ダーウィン・ヤングのゲネプロの様子をお届けしよう。

■えも言われぬ魔界感 末満健一の生み出す耽美(たんび)な世界に引きずり込まれる

舞台上のセットは、思いの外シンプルだった。舞台を圧迫するように、両袖に西欧風の重々しい灰色の塀が設置されている。一見では修道院だろうか、刑務所だろうかと思わせるが、ゆらゆらする怪しげな照明が印象的だ。オーケストラピットが無いせいか、ミュージカルというより、しゃれた舞台を観に来たという感覚で席に着いた。

しかし幕が上がった途端、そんな感想を持ってしまったことを反省した。
開幕を告げる強く重い音楽、大東演じる主人公ダーウィン・ヤングが現れ、重厚なコーラスが始まる。灰色の塀は独特な色の照明と映像に照らされ、先ほどまでとはまるで違う空間が現れた。歌声は讃美歌のようでもあるが、どこか禍々しい。これから始まる物語の不穏な空気が劇場に広がり、一気に舞台に引きずり込まれた。

大東立樹

本作は、韓国の小説家パク・チリの小説を原作にしたミュージカルだ。厳格な階級制度に支配された架空の都市は9つのエリアに区分され、階級によって住む場所も仕事も制限され、激しい貧富の差が生じている。上級の者たちは下級の人間との接触を忌み嫌い、差別や偏見が横行する世界が舞台だ。

ダーウィン・ヤングは上級エリアの出身。規律正しい全寮制のプライムスクールに通う16歳だ。家族を尊敬し、純粋無垢に明るく育つが、密かに階級制度に対する疑問を抱いている。ある日、異端児として扱われているクラスメート、レオ・マーシャル(内海啓貴)が自分と同じ考えを持っていることを知り友情を深める。

レオの行動力に惹かれ、影響され、探求心に火が点くダーウィン。しかしその行動は、自身のルーツに隠された、触れてはいけない過去を暴き、彼の運命をあらぬ方向へと向かわせてしまうことになる。

どこに転がって行くのかは、タイトル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』から想像してほしい。本作は壮大な人間ドラマとも言われるが、何十年にもわたる謎を解くミステリーでもあり、親、子、孫の三世代の運命が交錯する家族愛の物語でもある。

作者のパク・チリは、25歳の時に注目の若手作家として文壇デビューするも、5作目となる本作を発表した後31歳の若さで急逝している。物語とは関係ないものの、そんな事実までもが本作への興味を沸き立たせているように思う。

手前左から、植原卓也、矢崎 広、石井一彰

韓国では2018年にソウル芸術団によって初演され、圧倒的な音楽性が高く評価され、2019年、2021年と立て続けに再演、大ヒットとなった。日本版で潤色・演出を手掛けるは末満健一。『舞台 刀剣乱舞』や『舞台 鬼滅の刃』の作・演出などで知られるが、末満が作り出す耽美な世界感が加わることで、日本版『ダーウィン・ヤング 悪の起源』はより輝きを増しているのではないかと感じる。

物語のテーマ上、重く怪しいシーンは多い。苦悩や闇や、怒りや恐怖が、歌唱はもちろん、照明と巧みなプロジェクションマッピングで表現される。冗長なシーンは一つもなく、次々と変化する照明と映像で、決して広いとはいえない舞台はシーンごとに奥行も広さも変わっていくように見える。

振り付けも、ヤバイ。闇や恐怖といった抽象的な事柄を、指先の細やかな動きや群れるフォーメーションを通して、群舞を一つの悪しき生き物に変える。えも言われぬ魔界から黒々とした触手が観客に襲い掛かり、いい意味で心休まる暇がないのだ。親子三世代の出来事を一つのシーンで見せるダンスも圧巻だ。ぜひこの感覚を劇場で体感してほしい。

矢崎 広

■大東立樹のキラキラした瞳の色が変わる瞬間を目撃

ただ、重いばかりでないのが『ダーウィン・ヤング 悪の起源』だ。主演の大東立樹と渡邉蒼は共に18歳。二人とも今回がミュージカル初主演だ。

大東はコメントの中で「日々の稽古から(渡邉)蒼くんと互いに刺激し合い、自分なりにこの作品と向き合ってきました。(中略)「大千穐楽を終えるまではダーウィン・ヤングとして生き続ける」をモットーに、お客様に最高の作品をお届けします」と初々しい意気込みを見せている。

大東は、ジャニーズ事務所に入所する以前から舞台子役として活躍していた。劇団四季の舞台にも出演した経験があり、2019年のジャニーズ入所後はジャンーズJr.の一員として『JOHNNYS’ World Next Stage』や『Endless SHOCK』などで帝国劇場などの大舞台に立ち、キラキラな王子様感で注目されている。

そんな大東の魅力は、上級階級の子息ダーウィン・ヤングの役柄にピッタリだ。華やかな雰囲気とピュアな演技は、序盤のダーウィンの天真爛漫さを際立たせる。大人びた友人レオ・マーシャル(演じる内海啓貴は28歳なので大人なのだが)とのやり取りは、茶目っ気たっぷりの永遠の弟のようでかわいらしい。

だからこそ苦悩に表情が歪み、瞳からは生気の色が失われ、転がり落ちていく運命に翻弄される様が浮き彫りになる。伸びやかな歌声は美しく、時に、スレンダーな体のどこにそのパワーが? と思うほどの強さで響かせる。

左から、大東立樹、内海啓貴

繊細な心の動きを見せるダーウィン・ヤング役は相当に難しいと思われるが、最後には違う人物ではないかと思うほどの表情を見せた大東。初主演でこれだけの変貌を遂げることができるとは、今後が一層楽しみだ。

■大人が演じる16歳たち 違和感がないのが恐ろしい

初主演の二人をして、本作に安定感をもたらしているのは脇を固めるベテラン陣の力にもある。ダーウィンの父親、教育部長官でもあるニース・ヤング役の矢崎広。ダーウィンの祖父ラナー・ヤングを演じる石川禅。レオ・マーシャルの父であり、ドキュメンタリー映画の監督バズ・マーシャル役は植原卓也。物語の鍵となるニースの同級生ジェイ・ハンターは石井一彰が務める。

何と彼らは、各自の役の「16歳だった時」を演じるのだ。58歳にもなろうという石川の16歳は、さすがに無理があるが、16歳には見えない落ち着きだと自嘲するセリフで観客を笑わせる。しかし、天に運命を預け救いの扉を叩く姿は、(16歳とは言わないまでも)感情に任せて無茶な行動をしてしまう若者の懺悔(ざんげ)の姿にも見えた。

左から、植原卓也、矢崎 広、石井一彰

30代の矢崎、植原、石井が演じるニース、バズ、ジェイは仲の良い同級だ。互いの環境に少年らしい嫉妬を持ちながらも、勉強部屋ではしゃぐ彼らは心から“16歳”だった。若いキャストたちと学校で踊り、夢を語る姿に違和感がない。それがむしろ恐ろしいほどだ。

ちなみに、ダーウィン・ヤングの時代と年代が違うことは、青いスクールカーディガンで分かるようになっているので、観客は物語の中で迷子にならずに済んでいる。

もしかすると、本作には救いがないと感じる人もいるかもしれない。しかし、(めったにあることではないが)もし自分が同じ立場に置かれたらどう行動するのかと思うと、親や友人の存在を自身の16歳に戻って回顧できる、意味深い作品なのだと思う……といった難しいことは置いておいて、やっぱり韓国ミュージカルはすごかった。

【公演情報】
ミュージカル「ダーウィン・ヤング 悪の起源」

●東京公演● 2023年6月7日(水)~25日(日) 会場:日比谷シアタークリエ
●兵庫公演● 2023年6月30日(金)~7月2日(日) 会場:兵庫県立文化センター 阪急 中ホール

原作:パク・チリ
台本・作詞:イ・ヒジュン
作曲:パク・チョンフィ
編曲:サム・デイヴィス マシュー・アーメント
潤色・演出:末満健一
出演:大東立樹(ジャニーズJr.)、渡邉 蒼 Wキャスト/矢崎 広、植原卓也、内海啓貴、石井一彰、染谷洸太、鈴木梨央、石川 禅 他

オリジナル・プロダクション:ソウル芸術団
製作:東宝

写真:©entax

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