デフリンピックで“キング・オブ・アスリート”十種競技に出場決定!岡部祐介選手(ライフネット生命所属)インタビュー「デフリンピックは音がなくてもみんなの気持ちが熱く燃える場所」

2025.7.25 11:30
岡部祐介の写真

岡部祐介選手が11月15日(土)から東京で開催される『第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025』の男子十種競技代表選手に内定。ライフネット生命保険株式会社のアスリート社員である岡部選手は、過去2回(2013年、2017年)400mでデフリンピックに出場しており、「さらに自分の限界に挑み続けたい」という思いを胸に、2022年に十種競技に転向。今回、これまでとは違う競技でデフリンピック出場する。そんな岡部選手に競技転向のきっかけから、デフリンピック出場に向けた準備までインタビューを行った。

【十種競技とは】
2日間で合計10種目を行い、各記録を得点に換算し、合計得点を競う競技。
通常、1日目に100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400mの5種目、
2日目に110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、1500mの5種目が行われる。

|陸上部を選んだことが人生を大きく変えるきっかけに

――陸上を始めたきっかけを教えてください。

岡部:中学2年生の時に転校したろう学校には、陸上部・卓球部・美術部しかありませんでした。もともと身体を動かすのは好きでしたが、運動が得意とはいえず、どこか控えめなところがありました。その中で、「もっと速く走れるようになりたい!強くなりたい!」という思いから、陸上部を選びました。この選択が、私の人生を大きく変えるきっかけとなり、陸上と出会えて本当に良かったと思っています。もとは短距離が専門でしたが、自分の可能性をさらに広げたいという思いから、2022年より十種競技に挑戦しています。

――いつ頃からデフリンピックを目指すようになりましたか?

岡部:中学3年生の時の大会で、200mに出場して優勝することができ、そこから「頑張ればいい記録が出るんだな」という気持ちが湧き上がってきました。その頃は、デフリンピックの存在を知らなかったので、障がい者スポーツの最高峰であるパラリンピックを目指していました。大学に入学して初めて、聴覚障がい者のためのオリンピック『デフリンピック』があることを知りました。同じ境遇のアスリートたちが世界を舞台にハイレベルな戦いを繰り広げていることを知り、「ここが自分の目指すべき場所だ!」と強く心を動かされました。それ以来、デフリンピック出場が私の明確な目標となりました。

――400m走でデフリンピックに2度出場したあと、十種競技に転向するきっかけは?

岡部:2021年にブラジルで行われたデフリンピックの内定発表会で(自分の)名前がなくて、その時にもう陸上を引退しようかなと思ったんですけど…心残りがありました。友人も「まだできるよ」と背中を押してくれたこともあり、もう一度デフリンピックに出たいと思いました。走る以外にも投てきや跳躍などもあるので、自分の可能性を広げるため、限界を超えるために、陸上競技で一番辛いと言われる十種競技への挑戦を決めました。

|“キング・オブ・アスリート”と呼ばれる十種競技への挑戦

――今回、デフリンピック代表に内定したときの気持ちを教えてください。

岡部:発表の瞬間は、自分の名前が呼ばれるか本当に不安で、心臓の鼓動が周囲の人に伝わるのではないかと思うほど緊張していました。内定をいただいた瞬間、うれしさで胸がいっぱいになると同時に、これまで支えてくださった方々の顔が思い浮かび、感謝の気持ちで満たされました。もちろん安心感もありましたが、それ以上に「ここからが本当のスタートだ」という思いが強く、喜びを決意に変えて、本番で最高のパフォーマンスを発揮しようと心に誓いました。

――家族や友人から今回の内定について何と言われましたか?

岡部:「おめでとうー!!」、「本当によく頑張ったね」、「有言実行で素晴らしい!」など、たくさんのうれしい言葉をいただきました。

――十種競技に転向して初めてのデフリンピック、過去2回出場した時との気持ちに変化は?

岡部:過去2回は400mという得意種目に集中できましたが、今回は“キング・オブ・アスリート”とも呼ばれる十種競技で挑むので、気持ちは全く違います。1つの失敗が命取りになる緊張感に加え、2日間を通して集中力と体力を維持し続ける難しさがあります。
一つの種目ではなく、10種目すべてを乗り越えた先にある達成感を目指しているので、これまでとは違う、ワクワクする気持ちもあります。その分、体力も精神力も必要で、ひとつひとつ積み重ねることの大切さを改めて実感しています。

――今年のデフリンピックに向けて、現在どのような準備をされていますか?

岡部:自分の強みであるスプリント能力を維持・向上させながら、今は課題である跳躍種目と投てき種目の練習に力を入れています。特に、これまで得点が伸び悩んでいた走高跳、円盤投、やり投については、普段練習している国士舘大学陸上競技部男子監督の右代啓祐さん(オリンピックに十種競技で出場経験あり)をはじめ、学生や卒業生たちからも指導を受け、自分の動きをビデオで分析しながらフォームの改善に取り組んでいます。例えば、円盤投なら身体を回転させた後にしっかり円盤を投げきるところなどは、まだまだ課題が残っています。短距離のスピードをキープしながら、得点が低い棒高跳びや円盤投、やり投などの技術練習に取り組んでいます。

――難しいと感じている種目を教えてください。

岡部:身体の仕組み上、聴覚と平衡感覚が密接に関係しているので、耳が聞こえないと円盤投などの身体のバランスが求められる競技が難しいんです。走りながら投げる、回りながら投げるなど、タイミングを覚えないといけないところが多くなります。
棒高跳は、器具を扱う難しさと恐怖心を克服するのに苦労しました。タイミングやリズムも難しく、それに慣れるために練習をしています。今もまだ完璧ではありませんが、練習を重ねる中で少しずつ自分のものになってきている実感があります!

――もともと高い所は苦手ですか?

岡部:苦手です(笑)毎日毎日、覚悟を決めて飛んでいます(笑)棒を超えられると楽しいのですが…そこにたどり着くまでが難しいです。

――1500mは十種競技の中で、一番長い時間をかける競技だと思いますが、いかがですか?

岡部:1500mは2日目の最後の競技なので、1日目の後に疲れている状態だからこそ、体も心もボロボロです。でも、応援してくれる人が「頑張れ!」と言ってくれるので、気持ちを高めて、今までの全部の気持ちを出し切って走っています!

――国士舘大学陸上競技部男子監督の右代さんとは一緒に練習しているのでしょうか?

岡部:十種競技に転向して、自分で練習を始めましたが、棒高跳などの練習が進まず、「どうしよう…」と思い、右代さんにSNSで「デフリンピックに出たいので、ぜひサポートをお願いしたい」と自分から連絡しました。右代さんが快諾してくださり、それから一緒に練習しています。連絡して良かったと思っています。右代さんから「(僕は)オリンピックでメダルを取れなかったから、代わりにデフリンピックでメダルを取ってね」と言ってもらえました。

|社会人としての経験も競技人生の大きな支え

――(ライフネット生命で)アスリート社員として働く中で、職場での経験が競技に活かされていることはありますか?

岡部:たくさんあります。まず、仕事と競技を両立させる中で、時間管理能力が格段に上がりました。限られた時間でいかに集中し、質の高い練習をするか、常に考える習慣がつきました。また、職場では目標達成のためにチームで課題解決に取り組みますが、そのプロセスは、自分の弱点を分析し、右代さんと相談しながら克服していく競技のプロセスと同じと感じています。ライフネット生命の皆さんのご理解と応援も大きな力になっており、アスリートとしてだけでなく、一社会人としての経験も競技人生の大きな支えです。
また、職場の方々が応援してくれることで、モチベーションが高まりますし、自分ひとりの競技ではないと感じることができます。いつも大会に応援に来てくれていることが本当にありがたいです。

――普段のお仕事は何をされていますか?

岡部:人事総務部の仕事を担当しています。全社朝礼などで、アスリートの経験を活かして社員向けにストレッチを行うことや手話の勉強会を行うこともありますね。ほかには、講演などのデフリンピックの認知度を高める活動もしています。

――今年のデフリンピックは初の東京開催ですが、改めて伝えたいことはありますか?

岡部:今年のデフリンピックは開催から100周年になります。デフリンピックは、手話で拍手するなど、音がない世界ですけど、音がなくても選手のみんなの気持ちはすごく熱く燃えている場所だと思います。デフスポーツのおもしろさを少しでも多くの人に知ってもらって、手話も覚えてもらえたらうれしいです!

――ファンの方へメッセージをお願いします。

岡部:いつも温かいご声援をいただき、本当にありがとうございます。支えてくださる皆さんのおかげで、ここまで続けることができました。皆さんからいただく応援メッセージの一つひとつが、日々の厳しいトレーニングを乗り越える大きな力になっています。
十種競技の選手として初めて挑む今回のデフリンピックでは、2日間10種目、最後まで諦めずに全力を尽くす姿をお見せすることを約束します。少しでも多くの方にデフリンピックの魅力、そしてデフスポーツのおもしろさを知っていただけたらうれしいです。
デフリンピック本番でも、感謝の気持ちを忘れずに全力で頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします!デフリンピックで会いましょう!

デフリンピックでメダル獲得を目指す岡部選手と一緒に、肩・首こり改善のストレッチができる動画も配信中!

【岡部選手のストレッチ動画はこちらから】

【岡部祐介プロフィール】
1987年11月25日生まれ、秋田県出身。2016年にライフネット生命に入社。初のアスリート社員として、陸上競技の他は、デフ(ろう者)に関する理解・認知向上に向けた広報活動や人事総務部の業務などを担当。陸上競技では、2021年まで400mの選手として活動。「さらに自分の限界に挑み続けたい」と、2022年8月から十種競技に転向し、2025年のデフリンピックに出場する。

〈デフリンピック成績〉
2013年 第22回夏季デフリンピック競技大会ブルガリア ソフィア2013 400m準決勝
2013年 第22回夏季デフリンピック競技大会ブルガリア ソフィア2013 4x400mR 6位
2017年 第23回夏季デフリンピック競技大会トルコ サムスン2017 4x400mR 5位

提供:日本デフ陸上競技協会
写真:entax

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