【独占インタビュー】湖月わたると柚希礼音が本気で挑む2人舞台『マイ フレンド ジキル』
宝塚歌劇団で数々の作品を共にし、強い絆で結ばれた元星組トップスター、湖月わたると柚希礼音。2人が退団後初めて共演する舞台『マイ フレンド ジキル』が、2025年12月に上演される。
怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』をモチーフにした、【語り】と【踊り】が交差する唯一無二のダンス演劇。「善」と「悪」の二面性を持つジキルとハイドをダンスで表現する”パフォーマー”と、ジキルを尊敬しながらも心揺れる親友アタスンの目線で物語を進める”語り手”——この二役を、2人が回替わりで演じる。
稽古開始直前の2人にentaxが独占インタビュー。
——お2人が今回の共演を知った時、最初に交わした言葉は?
柚希 お話をうかがって「2人だけの舞台!本当にこれって実現するのかな、したらすっごいことだな」って。わたるさんとお食事する機会におずおずと「わたるさん、あれって聞いてらっしゃいますか?本当ですか?」って。
湖月 お互いね、2人きりになった瞬間にね。「聞いてる?聞いてる?」「あれですよね!」「そうそうそう!」って。そしてやっぱり「よろしくお願いします」(お辞儀しながら)
柚希 (笑)噛み締めましたね。
——お二人といえば宝塚歌劇団の元星組トップスターでもあり、先輩後輩として共に舞台に立っておられましたが、現役時代のお2人に「未来でこんな形の共演があるよ」と伝えたらどんな反応になったと思いますか?
湖月 本当にうれしい!信じられないってすごく喜ぶと思う。
柚希 下級生の時はトップさんって本当に雲の上の遠い存在で。自分がなったときはそんなに遠い存在でもないし、悩んでいる1人の人間なんだって思うんですけど。下級生から見るとやっぱりトップさんは雲の上の存在ですから、そんな自分がわたるさんと2人だけで舞台をすることになるなんて…想像できないと思います。だから宝塚時代の同期や仲間たちからは「本当に喉から手が出るほどうらやましい!信じられない!」って。もうたくさん連絡ありました。「やっぱりそうだよね!私も思ったけどみんなもそう思うよね!」って(笑)本当にうれしいです。
湖月 下級生の頃からちえ(柚希の愛称)を知っているんですが、皆さんご存知の通りに素晴らしいトップになって退団して、いろんな舞台で活躍していて、成長著しくて。そんなちえと、再び、それも2人きりでダンスと語りで舞台を作る。私!頑張れ!って感じです。
柚希 いやいやいやいや(笑)
湖月 こんなことってあるんだなって。なんか続けてきてよかったねって素直に思います。
柚希 こちらこそです。宝塚を退団して、本当にご一緒したかったけど、コンサートにゲストで出ていただいた以外なかなか機会がなくて。いつかご一緒したいけど「せっかくならドーンとしたもので」ってきっと周りの皆さんも思ってくださっていた。そうしたら本当に「ドーンとしたもの」で(笑)ご一緒する機会ができました。
——「ドーンとした」という話もありましたが、今回の舞台の大きな挑戦はどこにあると感じていますか?
柚希 やっぱり「ダンス」。クラシックバレエをやっているときはコンクールに出て、角度とかテクニックとかをやればやるほどいいんだと思って学んできたんです。ですが宝塚に入って先輩が——特にわたるさんから「踊りは心なんだよ」と。お芝居というか心の表現が「踊る」。なぜ踊るか、手を出す振りにも意味があるっていうことを教えていただいて、そこから踊ることがもっと好きになったという経験があって。ジキルとハイド役でダンスだけ、言葉も発しない【踊り】をできることも本当にうれしいです。
【語り】のアタスン役もとてもハードルも高そうだし難しそうですが、わたるさんと一緒だったら、いろんなことを勉強してお稽古中にいっぱい話し合いながら一緒に作れることによって、なんだか新しい世界が見られそうだなと思って…今は楽しみです。
湖月 今回は「ダンス演劇」というんですかね。ちえといえばもちろん何でもできるけど特にダンスが注目されていて、私もやっぱりずっとダンスが好きで、退団してからもお互いそれぞれにダンスと向き合ってきたんですね。そしてダンスだけでジキルとハイドの両面を演じる——ちえが先ほど言っていたように「ダンス」というのは「演じること」だと思って、ずっとこれまでも取り組んできたので。まさしくここに向かうために、この役に出会うために続けてきたのかなって思えるくらい、今『マイ フレンド ジキル』に出会えたことは本当に幸せなことで。
皆さんが「こんなものが観られるかな」って想像してくださってるものを超えてこそ、感動をお伝えできるかなと思うので。そこに行くには多分2人でもがき苦しむと思うんですけども…(笑)
柚希 本当に(笑)
湖月 でもそれがやっぱりね、その先に見える世界を楽しみに、高い山を一緒に助け合って、刺激し合って、進んでいけることが楽しみでもあり、怖さでもあり。
【語り】の方はもちろん初めてのことなので、自分のしゃべりだけで作品を動かしていくということですから。ただ、1人と思わずに…ちえも、音楽家の方もいらっしゃるので、あんまり気負わずに心のままに、役に瞬間、瞬間なれることを大切に。きっと(生演奏の)音楽も助けてくれるんじゃないかなって思っています。発しないジキルとハイドと対峙(たいじ)しながら、セリフや語りを発していく。どういう感情になるのかちょっと未知の世界なんですけども、気負うと何も生まれないと思うので、「いろんなこと」が感じられる状態に自分を持っていけるまでしっかりと向き合いたいなって思いますね。

柚希 本当に。ちゃんと周りが助けてくれていて、周りをちゃんと見ればもらうものがあるのに、それをもっと受け取らないといけなかったんだってことを今上演しているミュージカル『マタ・ハリ』でも思っていたところだったんです。わたるさんがおっしゃってくださった通り自分をオープンにして、毎公演、毎瞬間、周りからきちんと受け取ればきっと怖くない。わたるさんからも、周りの皆さんからもいろいろなものをもらって舞台上で生きることができればと思えてきました。
——【踊り】と【語り】、どちらがより自分らしいと感じますか?
柚希 以前コンテンポラリーダンスだけの公演に出たことがあって。私、その頃どうやって歌ったらいいか分からないみたいな時期で、一層ダンスだけの表現というのに救われると思っていたんです。でもその公演に出たことによってものすごく(声を)発したくなったんですよ。思いを芝居や歌で表現したいって思ったんですよね、ダンスだけになったことによって。私は声で表現することがずっと苦手だと思っていたんだけど、嫌いなわけではなかったんだって知ったんです。だから、ジキルとハイド【踊り】の方が今までの私だったら絶対に好きだと思っていたんです。でも、アタスン【語り】もきっと好きだろうなと。
そして、アタスンっていうのが一見語りだけの人で、なんか本を読んで椅子とか座っていて真ん中でジキルとハイドが踊っていそうなイメージかもしれませんが、アタスンもめっちゃ踊るんですよ。
湖月 そうなんだよね。アタスンも踊るの!
柚希 一緒に踊るシーンも結構多くて、ジキルとハイドとめちゃくちゃ絡んで踊ったりも。だから役としてはアタスンもすごく面白そうです。わたるさんはいかがですか?
湖月 私、意外と自分の気持ちを話すのが苦手なところがあって。なのでセリフを通してお伝えできるっていうのももちろん魅力的なんですけども、言葉を使わないで、ダンスパフォーマンスだけで、どれだけ思いって伝えられるのかな、その人物を表現できるのかなっていうのは、今回しかできないトライな気がしています。
そこがこの舞台で、自分とリンクできたらいいのかなって思っているんです。ジキルとハイドを通して、ダンスを通して自分の心の叫びみたいなものもお伝えできればいいなと。
——お互いのパフォーマンスで楽しみにしているところは?
湖月 私が楽しみにしているのはやっぱりちえと2人で踊るところですかね。そこって言葉も発さないんですよ。言葉をかわさずに2人きりで踊ってストーリーを展開させていく、2人の関係を見せていくっていうのは、やっぱり長年一緒にやってきたこの2人の絆があるからこそ出せる、できると思うので、注目していただきたいなってすごく思います。
柚希 私も同じです!宝塚時代にも何度も2人だけで乗り越えてきた場面があって。もうカウントなんてないキューバの先生の時とか、2人でカウント起こしてなんとか本番に向けて挑んだこともあった。蛇のダンスやら、象使いになるやら「色々ありましたよね!」みたいなことを乗り越えたので。2人で踊るときって信頼関係や絆が見えると思うんですけど、私たちの長年の絆。先輩後輩、いろんな時を一緒に過ごしてきた絆がありますので、お客様にも感じていただけたら。私自身も感動していると思います。自分自身が感動していることってやっぱりすごく届くと思うので、楽しみです。

湖月 2人の関係が出せるシーンだと思うので、ダンスを通してじゃれ合っているようなとか、お互いを思い合うようなとか。そんな風に会話をするようなダンスを届けたいですね。体って一つなのに、本当に音楽と振付家の方によってガラッと表現が変わってくるので。振付の益井悠紀子さんがいろんなジャンルをされていらっしゃる方だからこそ、きっと私たちを見て私たちだからこその振りをつけてくださるのかなと思っています。その振りに耐えられる体でいたいという、今はただそれだけですね。
柚希 お料理していただく前にベースだけは整えなければ…
湖月 そうなの!(笑)「それやりたいけどできない!」みたいなこともあるかもしれないんだけど、益井さんが振りつけるに値するいい素材でありたいなっていうのはあるよね。
——楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします。
柚希 自分自身も2025年はいろんなことに挑戦させていただいたんですが、最後の締めくくりがこんなご褒美のような、それでいてこんな高い壁が待っているのかと思うと、今からもう楽しみで仕方がないです。お客様にも濃い時間を過ごしていただけるんじゃないかと思いますので、ぜひ両パターンを一緒に体験していただけたらうれしいです。
湖月 ちえと私が出会って長い年月が流れ、いろんな経験をして、ようやく巡り合えた奇跡のような作品。本当に今の私たちだからこそ挑める作品だと思っていますので、是非私たちの大きな挑戦を間近で見届けていただけたらこんなにうれしいことはありません。よろしくお願いします。
『マイ フレンド ジキル』は、2025年12月16日(火)〜22日(月)よみうり大手町ホール、12月27日(土)〜29日(月)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。










