『Pas de Trois Encore 2025』評──舞踊が時間と空間を交錯させる瞬間
2025.5.13 17:00
〈上野の森バレエホリデイ2025〉特別公演として上演された『Pas de Trois Encore 2025(パ・ド・トロワ・アンコール)』は、舞踊表現の地平をまた一歩広げる試みであった。バレエとフィギュアスケート、舞台と映像——これら多層的な要素が、詩的な一体感として結実したのは、上野水香・町田樹・高岸直樹の3人の舞踊家それぞれが持つ“敬愛”の深度ゆえであろう。

特に印象的だったのは、映像と実演が交互に差し込まれた構成である。スケートリンクでの演技と昨年の作品映像、現在の舞踊が交差することで、舞台の醍醐味でもある「リアルな観客との対話」という常識が見事に揺さぶられる。録音音源を用いるという選択も含め、これは舞台芸術に対する誠実な問いかけであり、また新しい身体の記録と表現のあり方を示すものであった。

中でも観客の度肝を抜いたのは、男性舞踊家同士によるリフトである。高岸直樹と町田樹が織りなすその場面は、バレエの常識を踏襲しながらも、構成としてはまるでフィギュアスケートのペア演技やジャンプのような流麗さと緊張感をはらんでいた。フィギュアの知見を舞台芸術に持ち込んだ町田ならではの感性が、ジャンルを超えた「舞踊の解像度」を観客にもたらす。

舞踊における「捧(ささ)げる」という行為は、古くは神事的な祈りに端を発し、現在は観客への表現として昇華されているが、この公演で見せられたのは、その両義性が極めて洗練された形で共存していた点にある。上野水香の《献呈》には、長年の芸術家としての成熟と、それでもなお踊り続ける意志が静かに宿っていた。

『Pas de Trois Encore 2025』は、ジャンルを越境するだけでなく、時間と空間、そして身体と記憶までも巻き込む、新しい舞踊の可能性を提示した。これは再演という名の進化であり、まさに舞踊が未来に捧げうる“証”である。