にしおかすみこ 単独インタビュー:Twitterフォロワー7人から始まった 認知症の母との日々をつづった”笑える”連載を語る

2023.4.12 13:30

お笑い芸人・にしおかすみこの自著『ポンコツ一家』が、アマゾンの闘病記カテゴリーでベストセラー1位を続けている。何十年かぶりに帰った実家で母の認知症に気づき、ダウン症の姉と酔っ払いの父と4人暮らしを始めた日々を、クスっと笑える語り口でつづった1冊だ。SM女王キャラでのブレイクから16年。一発屋と呼ばれながらも落語家、リポーターといくつかの顔を持ち、次は執筆業にまい進するにしおかすみこに、書くことに対する思いを聞いた。

電車の中でスマホにメモ。「誇張はしたくないから、本人が言ったことのまま」

――『FRaUweb』での連載をまとめた『ポンコツ一家』ですが、発売からずっと人気ですね。感触はいかがですか。

にしおか 全国の書店員の方々がすごくがんばってくださっていてありがたいです。感想を書いてくださったり、ポップをつくってくださったり。それに書店のすごくいい場所に平積みしてくださっている。うちの家計を心配して、たくさん売ろうと思っていただいたりもあるみたいです。

――連載を始めた理由の1つが、“家計の足し”だったからでしょうかね。

にしおか 確かに、コロナ禍で仕事がゼロになって生活費を稼ぎたいというのはあったんですけど、私は笑ってほしくて書いているんで、だいぶ主旨がずれてきたなと思って(笑)。でも、そういった皆さんの優しさをツイッターとかで見ると、本当にありがたいなって思います。

私自身、連載を始める時にツイッターを始めたんですが、最初はフォロワーが7人だったんですよ。後で聞いたら7人の内3人が関係者。すると純粋なフォロワーさんって4人じゃないですか。よく逃げないでいてくれたなって感謝です。

それが、『ポンコツ一家』の連載1回目が出た時に数字がカタカタカタ と上がっていくのを見て、すごい! これは! 読んでくださっているのかも! って、その時初めて“読まれてるっぽい!”(笑)って感覚を実感しました。

――連載では1年前の出来事を書いていらっしゃいますよね。よく覚えていますね。

にしおか メモは取っていますね。スマホにメモアプリを入れて、電車で移動する時などに書いています。でも、バタバタして疲れて、書く気力もなくなった時は書かない。それはもう忘れて消えちゃっている。メモに書けたことだけを振り返って、連載に書いています。

メモに書くのはだいたい、何て言ったか、ですね。誇張はしたくないから、家族が言ったことのままアプリに入れています。言っていないのに言ったって書くことで、例えば認知症の症状を間違えられるのも嫌だし、それによって多くの方が傷つくことがあるかもしれない。それだけは嫌なので、そこは間違えたくないです。

一方私自身のことは大概「腹が立った」って書いてあります(笑)。1年前に腹が立っていることが書いてあったら、1年経って見て、またぶり返して腹が立ったりします。「書くと心の整理ができますか」と聞かれることもあるんですが、なかなか難しいです。

でも書くために、その時私がどう思ったかの言葉を探していくうちに、あーこんなことを思っていたってピタっとくる時があります。それが私の本当の気持ちなのかなと思うと、整理まではいかないですけど、気づくことはありますね。

お笑い芸人とは畑が違うけれど「私がやることで笑ってくださることが、すごくうれしい」

――連載を始めた理由のもう1つが“書くことが好き”ということでしたね。

にしおか 子どもの頃から書くことが好きだったし、自意識過剰のポエムをクラスの友達に見てもらったり、読書感想文コンクール等で発表したりするのも好きでした。

そういえば、母は、書くことにははこだわっていた気がします。私たち姉妹が幼い頃、言葉や絵や工作等々、姉が表現できることをいっぱい広げてあげようとしていて、その流れなのか、例えば夏休みに私が絵日記を書く時、母は「どう思ったかが先だから、感情から先に書きなさい」って。具体的に言われたのは書くことぐらいだったので覚えてますね。

あ、でも、連載を書く時、割と何月何日から書いている! 忘れてましたね(笑)。

――書くことが好きだった子ども時代を経て、お笑い芸人を目指したのはなぜですか?

にしおか 一攫千金(笑)。そのためには宝くじを当てるか、芸能界に入るかだと思って。宝くじだと当選を待っていなきゃいけないけれど、芸能界だと自分でやれる感じがすると思って、入ってみたら、私が経験させていただいた日々は、そんな派手な世界ではなかった。地道にコツコツとなんだなと思いながらやっています。

一発屋で終わってから、テレビでのお笑いの仕事はほぼないです。

それが今、『ポンコツ一家』を書くことで「笑った」と言ってもらえます。畑は変わったけど、私がやることで笑ってくださることがあるというのはすごくうれしいです。小さい頃から好きだった「書くこと」がようやく今、48歳にしてできるようになったいうような計画性はゼロです。常にいろいろ見失いながら、ブレにブレて、もがいたり、さぼったり、逃げたりを繰り返し、たくさんの方々に支えていただいて、流れ着いたところが、今ここですといった感じです。ラッキーなだけです。改めて好きなことができるというのは幸せだなと思います。

「私が書くことでいっぱい笑ってほしいです」

――これから芸人、執筆業と両立ですか?

にしおか 『ポンコツ一家』をたくさんの方々に読んでいただいて、書くことが広がりつつあるので、そこは大事にしたいです。まずこの本を爆売れさせて、第2弾、3弾も出したいです。そして家族意外のテーマでも書いていきたいです。もう欲まみれです(笑)。ただ連載執筆の締め切りも毎回ギリギリですし、やりたいことに脳がついていってないです。でも1個1個丁寧に全力で、悔いのないようにしたいので、やっぱりマイペースにコツコツとだなと思います。

ちなみに今現在『ポンコツ一家』以外では、群像で趣味のマラソンのこと、講談社FRAUwebで阿川佐和子さんと対談させていただいたときのことや、黒柳徹子さん著『窓ぎわのトットちゃん』とウチの母の子育てについて書かせていただいてます。今後も基本的には笑って欲しいので、自分にとっても楽しくてワクワクするようなことを多めで綴っていくと思います。

そして、執筆業と芸人の両立ですが、SMの女王様、需用がないんですよ(笑)。こればっかりは
ね、なんの仕事もオファーあってですからねえ。いただいたものを大切に、身体を壊さない範囲で、やはり元気と健康あってだと、この歳になるとつくづく思います。

――何事も気負わない、という印象を受けました。それが介護の日常もうまく過ごせる秘けつでしょうか。

にしおか うまくはいっていないです(笑)。まあまあグチャグチャです。けれど、私も含め家族皆、年を取っていくし、誰から倒れるかも分からない。シミュレーションするだけで疲れるので、想像だけで病むのはよそうと思っています。

考えるのは明日の朝ごはんぐらいまででいいかな。母はこの頃、会話を忘れるスパンが短くなっている気がします。でも徘徊もしていないし寝たきりでもない、元気です。そんな母と一緒にご飯を食べたり、一日のうちのどこかで笑い合えたら、良しとするかあみたいな感じです。

それに、今たまたま家に帰っていますけど、本当に心が病みそうになったら家を出ようとも思っているし、逃げる気満々です(笑)。私が元気でないと誰も幸せにならないですからね。

母は私に、私の人生だから自由に生きてほしいというのが、認知症になった今もずっとあるんです。看護師をしていて、家計のやりくりもして、姉と私にいっぱい愛情を注いでくれ、私たちが好きなことを見つけられるようにって育ててくれたんです。

私は、母も姉も父も、願わくば好きなように生きてほしいなと思います。こっちも自由にするよ、文句も言うよ、投げ出すかもよ、お互いさまだよってね。

――『FRaUweb』での連載は続いているのですよね。書くことで伝えたことはありますか?

にしおか 私の書くことで、悩んでいる方々がホッとしたり、心の箸休めになったらなら嬉しいです。いっぱい笑ってほしいに尽きます。

【にしおかすみこ Profile】
1974年生まれ。千葉県出身。2007年日本テレビ『エンタの神様』で女王様キャラのSMネタでブレイク。春風亭小朝師匠の指導のもと落語に挑戦。高座名は「春風こえむ」。著書には自叙伝エッセイ『化けの皮』を出版。現在ではテレビ東京『なないろ日和!』など、リポーターとしても活躍中。趣味のマラソンでは、2019年にフルマラソンで3時間05分03秒、2015年ウルトラマラソン100キロ女子の部にて第2位。最近はベジタブルカービングにハマりクオリティーの高さで話題になる。デジタルメディア『FRaUweb』にて『ポンコツ一家』連載中(毎月20日更新)。

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