【特別寄稿 第2章】“世界でただ一人の吹奏楽作家”・オザワ部長が語る吹奏楽部の「いま」と「これから」~部活動の目的とは

2025.11.7 11:30
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八王子学園八王子 吹奏楽部の集合写真

吹奏楽に青春をかける高校生たちに密着取材する、日本テレビ系『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』の大人気企画「日本列島 吹奏楽の旅」。今年も4月より全国の3校の密着がスタート、11月8日(土)の放送ではついに2025年の完結編を迎える。そんな吹奏楽部員たちが、厳しい練習に励む日々の中で、ノートや手紙、寄せ書きなどに書き綴った「言葉」をキーに紡いだノンフィクション『吹部ノート 12分間の青春』(発行:日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)を上梓したのが、“世界でただ一人の吹奏楽作家”として活躍しているオザワ部長。entaxでは長年に渡る取材経験を持つオザワ部長の特別寄稿をシリーズ連載。いま吹奏楽部の最前線では何が起こっているのか?をひも解いていく。

♪第2章~忘れられない吹奏楽部員たちの“言葉”

「○○高等学校、ゴールド金賞!」

会場にアナウンスが響き、客席で「キャーッ!」という歓声と拍手が巻き起こる。好成績の学校は喜び、望む結果ではなかった学校は涙する――。吹奏楽コンクールの表彰式で見られる光景だ。コンクールは7月、夏の訪れとともに各地で地区予選がスタートし、都道府県大会、支部大会(全国を11支部に分割)へと進んでいきます。そして、今年は10月19日に「吹奏楽の甲子園」とも呼ばれる全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部(全国大会)が開催されました。

多くの注目を集め、盛り上がりを見せる吹奏楽コンクールですが、吹奏楽部のいちばんの目的は「コンクールで好成績を収めること=勝つこと」ではなく、人間的な成長や学びにこそある、ということは前稿の序章~第1章でお伝えしました。ときには挫折が大きな成長につながることがあります。

>>前稿 序章~第1章はこちら

♪“サポートメンバー”の存在

しばしば吹奏楽部は、野球部との類似で語られます。野球部にレギュラー争いがあるのと同じように、吹奏楽部でもコンクールはA部門(全国大会につながる大編成)は55人までと決められており、部員数の多い学校はメンバーの選抜が必要になります。

選抜方法は(1)3年生を優先して出す、(2)オーディションで選抜、(3)日ごろの練習ぶりで先生が決める、という3パターンが主流です。ほとんどの部員はメンバー入りを望んでいるため、選抜から漏れたときの悔しさは大きくなります。挑戦する機会を失ってしまうのですから、当然のことでしょう。ちなみに、メンバー入りできなかった部員たちの名称は学校ごとに違いますが、もっとも一般的なのは「サポートメンバー(サポメン)」です。大会のとき、楽器運搬などを手伝うためです。実は、コンクールの演奏が成功するかどうかは、このサポートメンバーの存在も大切な要因になってきます。

たとえば、メンバーに選ばれなかったからといってサポートメンバーがモチベーションをなくして不真面目に部活をしていたら、部内の雰囲気は悪くなり、コンクールメンバーは練習に集中できなくなるでしょう。一方、サポートメンバーが最後までメンバー入りを諦めずに必死に練習していたり、サポートメンバーで結成されたチーム(B編成、C編成などと呼ばれる)が正規メンバーを凌駕する演奏をしていたり、コンクールメンバーのために裏方としてけなげに立ち働いてくれたりしたら……。コンクールメンバーの練習や本番も気持ちの入ったものになるでしょう。

マーチングコンテストなど別の大会、野球部の応援、学外コンサートなどをサポートメンバーの活躍の場として用意している学校もあります。サポートメンバーがいきいきと活動することは、コンクールメンバーにとってもよい刺激となるのです。

東京・八王子学園八王子高校2024年3月23日の定期演奏会の写真
東京・八王子学園八王子高校2024年3月23日の定期演奏会(卒業式直後、3年生最後のステージ)にて

♪陰の立役者

サポートメンバーは、コンクールの本番でも大きな存在感を発揮することがあります。拙著『吹部ノート』には、東京の八王子学園八王子高校が6年ぶりに全国大会に出場した際のエピソードがあります。常連校が集まる中、誰も全国大会を経験していない八王子高校のメンバーは心細い思いを抱えてバスで全国大会の会場にやってきます。そこにいたのは、先に到着して手を振っているサポートメンバーの姿でした。

「僕たちだけじゃないんだ! サポメンも一緒だ!」

部長だった飛川希くんは思わず笑顔になったといいます。そして、アウェイだと感じていた全国大会が自分たちのホームのように思えたそうです。そして、八王子高校は集中力の高い素晴らしい演奏を披露し、創部初の金賞に輝いたのです。サポートメンバーはその陰の立役者だったと言っていいでしょう。

東京・八王子学園八王子高校吹奏楽部部長(2024年度)飛川希(とびかわ のぞみ)さん(右から2人目)の写真
東京・八王子学園八王子高校吹奏楽部部長(2024年度)飛川希(とびかわ のぞみ)さん(右から2人目)

♪吹奏楽部の活動の目的とは

もちろん、そういったことでコンクールメンバーになれなかった部員たちの悔しさが完全に払拭されるとはかぎりません。ただ、吹奏楽部の活動の目的は人間的な成長や学びだという原点に戻れば、メンバー選抜という厳しい状況もまた、成長や学びの機会、教育の機会になると言えます。高校生たちはこれから先の人生、大学受験や就職、恋愛、資格試験など多くの「選抜」を経験することになります。そのとき、吹奏楽部で経験したことが活きてくるのです。

自分が選抜されたときでも、選抜されなかった人たちの気持ちが理解できるでしょう。選抜されなかったら、そこで投げやりにならず、次に向かってどんな努力をしていけばいいのか、部活での経験をもとにして考えることができるでしょう。

筆者はこれまで、選抜に漏れた部員たちの話も聞いてきました。オーディションで選ばれなかった部員もいれば、金属アレルギーなどで演奏ができなくなった部員もいました(『吹部ノート 12分間の青春』に登場する旭川明成高校吹奏楽部の部長がそうでした)。彼らはつらい状況を乗りこえ、みんなの前では笑顔を浮かべ、影では静かに涙を流し、部活を最後までやり遂げていました。仲間や先生、家族の存在も、彼らの支えになっていました。

北海道・旭川明誠高校吹奏楽部部長(2024年度)・赤平陽芽(あかひら ひめ)さんの写真
北海道・旭川明誠高校吹奏楽部部長(2024年度)・赤平陽芽(あかひら ひめ)さん(『吹部ノート 12分間の青春』より)

赤平陽芽(あかひら ひめ)さんが、金属アレルギーのことを綴ったノート(『吹部ノート 12分間の青春』より)

「吹奏楽部に入ってよかったです」
「入部したことを後悔していません」

爽やかな笑みを浮かべながら彼らが口にした言葉が忘れられません。自分が高校生のときにこんな考え方やふるまいができただろうか、おそらくできなかっただろう、と思います。大人となったいまでもできるかどうか自信はありません。そんな高校生たちの姿に、ひとりの人間として、心からリスペクトを覚えました。授業では学べないことを体験でき、成長できる場所としての吹奏楽部の素晴らしさも感じました。

♪「いつか必ずその日は来る」

メンバーに選ばれなかったり、大きなミスをしたりした部員たちに取材した後、いつも筆者は彼らにこう声をかけています。

「いつか『あの経験があったから、いまがある』と思えるように、この先の人生で成功をつかめるといいね」

どんなささやかなことでもかまわない。「自分の望みが叶った」と思える瞬間が来たとき、きっと吹奏楽部での悔しかった経験が報われ、浄化されることでしょう。高校時代と同じように、挫折を味わっても腐らずに努力を続けていけば、いつか必ずその日は来る――筆者はそう信じています。

今年、日本テレビ『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』の「吹奏楽の旅」では、旭川明成高校(北海道)・ノースアジア大学明桜高校(秋田)・明誠学院高校(岡山)という3校の吹奏楽部が密着取材を受けています。

もしかしたら、オーディションなどで部員が挫折する様子が放送されるかもしれません。きっとそこには、彼らの涙だけでなく、成長や学びも映しだされることでしょう。

【第3章に続く】

【オザワ部長 プロフィール】
「あるある吹奏楽部」シリーズで大ブレイク、『オザワ部長の吹奏楽部物語 翔べ! 私たちのコンクール』(学研プラス)で「吹奏楽部ドキュメンタリー」という新ジャンルを確立。『吹部ノート』シリーズ(ベストセラーズ)ほか吹奏楽関係著書は20冊以上に及ぶ。テレビ・ラジオ出演、司会などでも活躍。近著に『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド ~沖縄の高校がマーチング世界一になった話~』(新紀元社)、『空とラッパと小倉トースト』(Gakken)など。

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