心が折れたら虎ノ門へ。アートと科学で「おつかれさま」を体感する新空間『ちょっと、ひといき展』
「休む」って、実は難しい。
便利な社会になったはずなのに、私たちの”心の余白”はどんどん小さくなっている。そんな矛盾を抱える現代人のために、丸善ジュンク堂書店とJTの「D-LAB」が仕掛けた試みがある。虎ノ門ヒルズ「magmabooks」で12月5日に始まった『ちょっと、ひといき展』だ。山田全自動のイラスト、呼吸するクッション、そして「がんばらなくていい時間」——高層ビルが立ち並ぶ東京の真ん中で、休むことをポジティブに、ふっと自分がほどける時間を届ける注目のイベントを取材した。
企画展の中心となるのは、山田全自動による作品展『ちょっと、ひといき展 ~山田全自動のみんな頑張ってるでござる~』。江戸時代の町人風イラストで現代社会の”あるある”を描く山田全自動。ライブドアブログで月間1,000万PVを獲得、SNSフォロワー数は100万人を超える人気クリエイターだ。2階のmagmaspaceでは、本企画のために制作されたオリジナル作品を含む特別展示を実施。江戸風イラストと現代社会のギャップが生み出す独特の世界観で、”ちょっと、ひといきしたくなるシーン”を軽やかに風刺する。

「Wi-Fiがつながらなくて心が折れる」「返信無限ループで既読スルーが罪のように感じる」。現代人の”あるある”がクスッと笑える中にも”自分ごと”として刺さる。日常、仕事、子育てなど様々なシチュエーションを描いた大小の作品を楽しみながら、自然と心のこわばりがほどけるような空間だ。企画展限定のオリジナルグッズも販売。日常の”ひといき時間”に寄り添うアイテムとして、ドリップコーヒー、アクリルキーホルダー、ステッカーなど、ここでしか手に入らない”おつかれさまグッズ”が用意されている。
3階の書店内には一般の方から寄せられた”おつかれさま”なエピソードを展示。「打ち合わせで『一瞬だけ共有してもいいですか?』が5回目」「chatGPTからの励ましで泣きそうになる」。ブラックユーモアからほっこり系まで、思わず「わかる!」と頷(うなず)いてしまう。


書棚のあちこちに配置され、本を探している最中にふと出会う。知らない誰かの”おつかれさま”に頷き、笑う。「みんな、おつかれさま。私も、おつかれさま」とつい呟(つぶや)きたくなる仕掛けが散りばめられている。
今回のイベントでは、文化的側面だけでなく、科学的側面からも”休むこと”を深めているのも特徴的。magmabooks3階の「magmalounge」では「集中と緩和が思考の循環を作っていく」というコンセプトのもと、「休むこと」自体を1つのクリエイティブな行為として捉えている。丸善ジュンク堂の工藤淳也氏は「現代のビジネスマンがますます休むということ自体が難しくなっていく中で、あえてお金を払い、意識を持って休憩をとるという選択肢を提供したかった」と企画の意図を語る。呼吸するクッション「fufuly」と深い休息体験をもたらすアイマスク「Relaxonic Cover」の貸し出しを実施し、実際に”ひといき”を体感できる空間を設けた。

fufulyは、抱きかかえて使う呼吸誘導型のロボットクッションだ。「呼吸の引き込み現象」に注目し、まるで呼吸をするように膨らんだり縮んだりする動きによって、普段あまり意識していない自分の呼吸を意識できるようになるという。

Relaxonic Coverは、人間の耳には聞こえない超高周波を含む15種類のサウンドと目元を温める温熱機能により、限られた時間で最大限のリフレッシュを実現することを目的としたアイマスク。5〜20分使うことで、忙しい生活の合間でも短時間で心地よい休息をとることができる。
30分500円(税抜)から利用可能で、店頭受付のみの対応。パフォーマンスを上げるために集中する時間も必要だが、同じように心の休憩も必要な時間だという考えのもと、心身をやさしくゆるめる技術にも着目している。
展示と連動して、睡眠医学や音声工学など、「休憩」について様々な観点の専門家がセレクトした”ひといき”をテーマにした選書コーナーも展開。「休む」「立ち止まる」「ゆるめる」を見つめ直す多彩なタイトルが並ぶ。さらに、「ちょっと、ひといき」に欠かすことのできない「呼吸」をテーマにした各分野の専門家によるトークセッションも開催される。第1回は12月5日に早稲田大学スポーツ科学学術院教授の西多昌規とレスリング選手の須崎優衣を招いて「お昼寝と呼吸」をテーマに実施。12月18日には2つのセッションが予定されており、1つ目はボイストレーナーの長塚全と明治大学教授の森勢将雅が「いい声のだし方」を音声学・音響学・心理学の観点から探る。2つ目はPictoria代表取締役CEOの明渡隼人が「fufulyとバーチャルキャラクターから考える生き物らしさ」について語る。いずれも無料で参加可能。

『ちょっと、ひといき展』は、入場無料、予約不要で、平日・土曜は11時から21時まで、日曜・祝日は11時から20時まで開館。ふらりと立ち寄れる気軽さも魅力だ。「『がんばる』も『疲れる』も、いまを生きるリアルな感情」。そんなメッセージを掲げ、現代人の”おつかれ”に寄り添い、休むことを文化として捉え直すこの企画展。会期は2026年1月12日まで。年末年始の慌ただしさの中で、あえて立ち止まり、”がんばらない時間”を過ごしてみるのもいいかもしれない。






