新国立劇場バレエ団『シンデレラ』開幕 アシュトンの魔法とともに、新たなシーズンが始まる
新国立劇場バレエ団の2025/2026シーズンが、フレデリック・アシュトン振付『シンデレラ』で華やかに幕を開けた。10月17日から26日までオペラパレスで上演され、22日には通算100回目の記念公演を迎える。英国バレエの伝統と気品を受け継ぐこの作品は、同団のレパートリーの中でも特別な位置を占めており、新しいシーズンの始まりを象徴するにふさわしい。

アシュトン版『シンデレラ』は、詩情豊かな振付と繊細なユーモアが共存する名作である。少女が夢と希望を手にするまでの心の軌跡を、デヴィッド・ウォーカーの華麗な舞台美術と衣裳、そしてプロコフィエフの壮麗な音楽が支える。1999年の初演以来13回目の上演となる今回も、観客を幻想的な世界へと誘う。

監修・演出を手がけるのはウェンディ・エリス・サムスとマリン・ソワーズ。アシュトンの原典を尊重しつつ、現代の感性に寄り添う繊細な演出で、作品の新たな魅力を引き出している。吉田都芸術監督のもと、ダンサーたちはクラシックの精度とドラマ性を融合させ、物語に奥行きを与える。指揮はマルク・ルロワ=カラタユードと冨田実里。東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏が、舞台に息吹をもたらしている。

英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、ワディム・ムンタギロフが後半日程でゲスト出演し、気品と詩情に満ちた踊りで舞台を一層華やかに彩る。
また、長年にわたり新国立劇場バレエ団の主軸として王子役を数多く務めてきた奥村康祐と福岡雄大が、今シーズンより「シーズン・ゲスト・プリンシパル」として活動することも発表された。奥村は2016年、福岡は2012年にプリンシパルへ昇格して以来、カンパニーの顔として観客に愛され続けてきた存在である。

このステップチェンジにより、今シーズンの『シンデレラ』では新たなキャスティングが実現。新しいペアリングが組まれ、舞台上に新鮮な空気と化学反応が生まれている。奥村は今回、義理の姉役をコミカルに演じ、客席の笑いを誘った。長年の経験を感じさせるユーモラスな演技が作品に温かみを添え、吉田都芸術監督が取り組んできた演劇性を象徴するようであった。
さらに、今回の公演ではカーテンコール時の撮影が許可されたことも話題を呼んでいる。SNS上では写真と共に感想が多く寄せられ、観客と舞台が一体となる新しい形の鑑賞のスタイルが生まれた。英国ロイヤル・バレエなど海外カンパニーではカーテンコール撮影が一般的であり、新国立劇場バレエ団では『人魚姫』上演時に続く試みとなる。観客が芸術をともに共有という姿勢は、舞台と社会をつなぐ新しい潮流を示している。

夢と現実、伝統と革新が交錯する『シンデレラ』。
新しいペアリングが生み出すフレッシュな舞台に、観る者は誰しも心を奪われるだろう。
2025/2026シーズン、その幕開けを飾るこの舞台で、新国立劇場バレエ団は再び“夢の魔法”を放っている。






