万博の年に、あの家族が帰ってきた!日韓合作『焼肉ドラゴン』、新国立劇場で開幕 日韓国交正常化60周年に再び

2025年10月7日、新国立劇場 小劇場にて、鄭義信の代表作『焼肉ドラゴン』が9年ぶりに幕を開けた。
2008年に新国立劇場とソウル・芸術の殿堂の共同企画として誕生した本作は、戦後日本に生きた在日コリアン家族の姿を通して、日韓の過去・現在・未来を見つめる物語である。2025年、日韓国交正常化60周年を記念して、4度目の上演が実現した。

舞台は1970年の関西地方。高度経済成長に沸くなか、万国博覧会が開催され、人々が「未来」を夢見ていた時代である。
その片隅に灯る焼肉屋「焼肉ドラゴン」には、戦争で片腕を失った父・金龍吉と、ちぐはぐで愛おしい家族が生きている。差別や貧困、時代の波に押し流されながらも、笑い、泣き、支えあう彼らの姿は、2025年のいま、大阪・関西万博が開幕している現代の日本とも響き合う。変わらぬ人間の哀しみとたくましさを、観客はまざまざと感じ取るだろう。
今回の公演では、2008年オリジナルキャストに加え、新たな俳優陣が参加。客席に漂う焼肉のにおい、笑いと涙が交錯する台詞の応酬、音楽と身体のエネルギーが重なる瞬間、すべてが生命力に満ちている。初日の客席は熱気に包まれ、拍手が鳴りやまなかった。

作・演出の鄭義信は、初日にこうコメントしている。
「『焼肉ドラゴン』開店いたしました!
ソウル、北九州、富山、新国立劇場中劇場にも出張いたします。笑いと涙とちょっぴり辛い、家族の思い出がしみこんでます。どうぞお立ち寄りください。あのなつかしい家族一同で、お待ちしています!」
その言葉のとおり、この作品には「懐かしさ」と「再生」が共存する。誰にでも帰る場所があるようで、実は居場所を失っていく・・・そんな時代の不安を抱える私たちに、作品は静かに問いかける。
焼肉の煙の向こうに見えるのは、家族の絆か、それとも過ぎ去った夢か。『焼肉ドラゴン』は10月27日まで新国立劇場 小劇場で上演されたのち、ソウル(11月)、北九州、富山を巡り、12月には新国立劇場 中劇場に凱旋する。戦後から現代へ、そして未来へ。日韓の絆を見つめ直すこの舞台を、ぜひ劇場で体感してほしい。
(取材・文 和田弘江)

日韓国交正常化60周年記念公演
『焼肉ドラゴン』
2025年10月7日(火)~27日(月)新国立劇場 小劇場
2025年12月19日(金)~21日(日)新国立劇場 中劇場 <凱旋公演>
[韓国公演]11月14日(金)~23日(日)芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター) CJトウォル劇場
[福岡公演] 12月6日(土)~12月7日(日)J:COM北九州芸術劇場 中劇場
[富山公演] 12月12日(金)~12月13日(土)オーバード・ホール 中ホール
【作・演出】鄭 義信
【出演】千葉哲也、村川絵梨、智順、櫻井章喜、朴 勝哲、崔 在哲、石原由宇、北野秀気、松永玲子/イ・ヨンソク、コ・スヒ、パク・スヨン、キム・ムンシク、チョン・スヨン
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