東京文化会館休館前、ウィーン国立歌劇場“最後”の引っ越し公演 -9年ぶりの来日、日本の舞台に響く『フィガロの結婚』『ばらの騎士』-

2025.10.4 12:45
  • Twitter
  • Facebook
  • Line

レパートリーの広さと多彩さで知られ世界有数の歌劇場である「ウィーン国立歌劇場」が、この秋9年ぶりに日本へやってくる。1980年の初来日以来、節目となる10回目の公演。東京・上野の東京文化会館で、10月5日から『フィガロの結婚』(モーツァルト作曲)と『ばらの騎士』(R.シュトラウス作曲)が上演される。

オペラの引っ越し公演には、それを実現するための舞台機構を備えた本格的な劇場が必要。これまでそのメイン会場となってきた東京文化会館は、改修工事のため来年5月から数年間にわたり大規模改修工事に入ることが決まっている。そのため、今回のウィーン国立歌劇場の日本公演が、休館前、最後の本格的なオペラ引っ越し公演となる。

『フィガロの結婚』 指揮 ベルトラン・ド・ビリー

日本の劇場不足に懸念

主催者である日本舞台芸術振興会の髙橋典夫専務理事は「コロナ禍の影響を受け延期となり2016年以来の来日がやっと実現した。だが東京文化会館が休館に入り、他にも神奈川県民ホールなども使えない状況になると、日本国内で大規模な引っ越し公演を行うことは当面難しい」と現状を説明した。さらに「長期的に見れば劇場不足が日本の音楽文化を脅かす懸念もある。東京文化会館の工事が予定通り進むことを切に願っている」と語った。

『フィガロの結婚』 アルマヴィーヴァ伯爵夫人役 ハンナ=エリザベット・ミュラー

■二大演目で示す伝統と革新

開幕を飾る『フィガロの結婚』は、人気演出家バリー・コスキーが手がけた2023年初演の新プロダクション。現代的なテンポ感と鋭い人物描写が話題を呼び、今回が日本初演となる。一方、『ばらの騎士』は名演出家オットー・シェンクによる伝統のプロダクション。ウィーンで400回以上上演されてきた名舞台を東京で体験できるのは極めて貴重である。

『フィガロの結婚』 フィガロ役 リッカルド・ファッシ

■分かち合う劇場の価値と、日本で歌える喜び

ウィーン国立歌劇場のボグダン・ロシチッチ総裁は「日本に帰ってこられたことには大きな意味がある。300人を超える人がウィーンから来日していて、これは日本だから可能なこと。これが10回目の来日となりオペラという何世紀にもわたる歴史を持つ芸術でありながら大変意義深い」と語り、歴史と伝統を未来へつなぐ意義を語った。

ウィーン国立歌劇場総裁 ボグダン・ロシチッチ氏

今回『フィガロの結婚』スザンナ役で出演を予定していたイン・ファンが、急な喉の炎症により降板。代わって、2023年に同役でウィーン国立歌劇場デビューを果たしたカタリナ・コンラディが出演する。コンラディは予定通り『ばらの騎士』ゾフィー役にも登場し、二役を務める。
本人は「ダブルでハッピーです。」「演じるスザンナは非常に現代的な人物で300年前に描かれたとは女性とは思えない。自らの手で人生を切り開き、フィガロの人生をも操ってしまう。」「スザンナもゾフィーも夢を抱く若い女性です。自分の中から湧き出るフレッシュな感覚を大切にして、自然体で演じたい。」と意欲を語った。

『フィガロの結婚』 スザンナ役 カタリナ・コンラディ

東京文化会館の大規模改修を前に、ウィーン国立歌劇場が日本で魅せる最後の引っ越し公演。伝統と革新の二大名作、そして新たに加わったキャストの挑戦が、日本の観客に唯一無二の体験をもたらすだろう。ウィーンの香りと響きを全身で浴びるこの秋を、ぜひ逃さないでほしい。

『フィガロの結婚』 ケルビーノ役 パトリッツィア・ノルツ

「フィガロの結婚」全4幕 作曲:W.A. モーツァルト)
演出:バリー・コスキー
指揮:ベルトラン・ド・ビリー
10月 5日(日)14:00
10月 7日(火)15:00
10月 9日(木)18:00
10月11日(土)14:00
10月12日(日)14:00

会場:東京文化会館

「ばらの騎士」全3幕 (作曲:R. シュトラウス)
演出:オットー・シェンク
指揮:フィリップ・ジョルダン
10月20日(月)15:00
10月22日(水)15:00
10月24日(金)15:00
10月26日(日)14:00

会場:東京文化会館

写真:Yuji Namba
取材・文:和田弘江

クオカードプレゼントキャンペーン2024

関連記事

おすすめ記事

ジャンル