『星のカービィ』桜井政博氏が7分間ノー台本で見どころ解説 「日本ゲームデザイナーズ大賞2025」受賞、悪魔のささやきにさいなまれる“至高の雰囲気ゲー”『INDIKA』とは?

年間を代表するにふさわしいゲームタイトルを選考・表彰する「⽇本ゲーム⼤賞 2025」の発表授賞式が9月23日(火・祝)、イイノホール(東京・千代田区)にて開催。3,000本以上の作品やコンテンツの中から、『ポケポケ』や『Nintendo Switch 2』、『ドラクエⅢ』HD-2Dリメイクなど、そうそうたるタイトルが7つの賞を獲得。そんな中、『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズの生みの親である桜井政博氏が審査委員長を務める「ゲームデザイナーズ大賞」では、ロシア正教会を舞台とする異質な作品『INDIKA(インディカ)』が選出。ほかでは味わえないというその魅力を、桜井氏がその場で、7分間“ノー台本”で解説した。
今回で開催29回⽬を迎える「⽇本ゲーム⼤賞」。今年度は、2024年4月1日〜2025年5月31日の間に国内でリリースされた作品を対象に、選考委員会による審議や、一般投票を経て選ばれた「経済産業大臣賞」、「ブレイクスルー賞」、「ムーブメント賞」、「特別賞」、「ゲームデザイナーズ大賞」、年間作品部⾨「優秀賞」、そして優秀賞の中から選ばれる「大賞」の計7つを発表。
経済産業⼤⾂賞は、『Nintendo Switch 2』(任天堂株式会社)が受賞。本機は今年6⽉の発売に先駆け、4⽉に詳細な仕様や発売⽇、予約による販売⽅式が発表されると国内外で⼤きな話題に。ユーザーフレンドリーな価格設定とハードとしてのクオリティーの⾼さが⽀持され、発売後4⽇間の世界販売本数は任天堂のゲーム専⽤機として過去最⾼の350万台を超え、6⽉の累計販売台数は582万台を記録。任天堂の専⽤ゲーム機として⽇本国内・欧⽶のみならず、タイやシンガポール、フィリピンといった東南アジア圏でも初めて発売されるなど、⽇本の家庭⽤ゲーム産業の発展に貢献した点が評価されての受賞となった。

年間作品部⾨の⼤賞は、『モンスターハンターワイルズ』(株式会社カプコン)や『ELDEN RING NIGHTREIGN』(株式会社フロム・ソフトウェア)、『⿓が如く8外伝 Pirates in Hawaii』(株式会社セガ)、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』(株式会社スクウェア・エニックス)などなど、多くの話題作を抑えて『メタファー:リファンタジオ』(株式会社アトラス)が受賞。
“幻想世界”を舞台に、国王の暗殺を機にはじまる王位争奪戦を描いた完全新作ファンタジーRPGの本作は、壮⼤なストーリーと幻想的な世界観、アクション性と戦術性を両⽴させた画期的な戦闘システム、背景を彩る美しいサウンドと⻄洋絵画を思わせるユーザーインターフェース、そして圧倒的なプレイボリュームが特徴。数々の個性的なキャラクターたちによって紡がれる壮⼤なドラマに、多くのユーザーから熱狂的な⽀持が寄せられての受賞となった。

このほか、独創的なアイデアやチャレンジにより新たなゲーム性などを生み出した作品に贈られるブレイクスルー賞は『Clair Obscur:Expedition 33』(Kepler Interactive)が、「ムーブメント賞」は『ポケポケ』の愛称で知られる『Pokémon Trading Card Game Pocket』が、「特別賞」はゲームビジネスの収益構造に⼤きな変⾰をもたらしたと評価された『PlayStation®Store』がそれぞれ受賞した。

|ゲームデザイナーズ大賞『INDIKA』 どんなゲーム?
本年度の「ゲームデザイナーズ⼤賞」に選ばれたのは、『INDIKA』(Odd Meter Games)。本作は、宗教的ビジョンと厳しい現実がぶつかり合う奇妙な世界を舞台にした三人称視点のゲーム。一人の若き修道女が、角の生えた一風変わった仲間とともに、自分探しの旅に出る物語が描かれる。『PlayStation®Store』PS5版 購入ページの「世界のプレイヤーの評価」を見ると、9月24日時点で「4.12点(5点満点中)」。59%のプレイヤーが最高評価の五つ星をつけている。
登壇した審査員⻑の桜井⽒(有限会社ソラ代表)は、まず「ゲームデザイナーズ⼤賞」の趣旨を紹介。今回審査を担当した10名をスクリーンに映した上で、「このように日本で、いや一部“世界”がいるな(笑) 斬新なゲームを作ったゲームデザイナーの方々に10点ずつ持っていただき、それを第1審査として、そこで上がったものを第2審査として、テーマは独創性で構成していただいた賞です。どうしても『日本ゲーム大賞』は“人気票”になりがちなので、それとは別の評価軸を持った、もう一つの対象だと思っていただければ幸いです」

桜井氏によると、今回の選考はかなり拮抗。最後、ちょうど同じ票数が集まった3作品から大賞を選出したという。そのうちの一つは、人や物の影のある場所にしか移動できないアクションゲーム『SCHiM – スキム』。もう一つは、“50音”の中で呪文を唱えるシューティングゲーム『スペルトナエル』。そして、大賞に選ばれた『INDIKA』だ。

普段であれば、桜井氏が受賞作品を生プレイしながらその魅力を伝えるところだが、今回は「一つのカットでは説明できない」という理由から、自ら紹介ムービーを作成。「7分だけ、時間をください。台本はありません。変なこと言ったらごめんなさい」と笑顔を見せると、スクリーンに映された映像に合わせ、作品を紹介し始めた──。※以下、説明抜粋。
「時は19世紀末のロシア正教会。主人公インディカは、そこの修道⼥ですね。どうも様子を見ると、他の修道女仲間から爪はじきにされているような感じがあります。なんというか、奇行が目立つんですね。なぜか?
インディカには悩みがありまして。心の中で悪魔の声が聞こえるんですね。(画面のテロップを指して)こういう声が、自分の欲望みたいなものを大っぴらしながら心の中で叫んでいる。これはなかなか精神に来るものがある──」
「この正教会での位置付けみたいなものを体験できるところ(プレイシーン)がありまして、井戸で水を汲んでこいと言われるんですね。これがまた、“ダッシュ”もないのに、(井戸で)桶をおろす、桶をあげる、組み替える、阻止ってよっこいしょと歩いて戻る──そして、亀の中に水を入れる。これ、5回やれって言うんです。そしてそのお水…(無惨にも桶をひっくり返されるシーンを見て)なんてことするんだ、と(笑)」
桜井氏の解説に合わせ、会場からは笑い声も──。
本作のように宗教観を前⾯に押し出す作品は稀(まれ)であるが、ほかの作品では味わえないキャラクターの⼼象⾵景、反体制的な宗教観、徳などをテーマにした物語や世界設定、雰囲気作りが評価対象に。大賞選出の背景について、桜井氏は「ゲームのシステムがある程度斬新なことが『ゲームデザイナーズ大賞』に選ばれることが例年多かったし、そればっかりだったわけですけど、今回はどうも様子が違いました。確かに斬新だけれども、そこを評しているわけではない。“悪魔”は本当にいるのかいないのか、(ゲーム中に獲得できる/桜井氏は『徳』と呼んだ)ポイントはそもそも何なのか、色々なことを考えると結構深いところがあると思います」と述べ、約7分の映像がちょうど終了した。

最後に、桜井氏は「やっぱりゲームを賞するのは無理がありますね。色んな価値観があって、その人の好きがあるから、私はとってもおこがましいと思っています。だけれども、色々な方々が賞を受けることで喜んでくれる。それが何より」「これからも私を含め、色々な制作者が(作品を)作っていくわけですが、頑張りましょうね! …というわけで、よろしくお願いします。ありがとうございました」と業界全体を激励。大きな拍手の中、壇上を後にした。