『恋愛禁止』×『近畿地方のある場所について』単行本・文庫本・実写 結末が変わることの難しさ「自己否定のような感覚」【W作家コラボインタビュー】

現在読売テレビ・日本テレビ系にて放送中の木曜ドラマ『恋愛禁止』原作者・長江俊和と、大ヒット上映中の映画『近畿地方のある場所について』原作者・背筋の2人にインタビューを行った。作品が生まれたきっかけから、お互いの作品について、“ホラー”作品を扱う上での醍醐味(だいごみ)まで話を聞いた。
|『恋愛禁止』/著者・長江俊和 概要
瑞帆の前に現れた3人の男――。1人は、ある時期、彼女の世界の中心だった。だが、いつしか愛情は憎しみに変わり、口論の末、彼を衝動的に殺してしまう。発覚を恐れた瑞帆だったが、一向に殺人は露呈しない。そのことに戸惑う中、知人の紹介で知り合った男と交際を重ね、やがて子どもを授かる。そしてもう1人は、純粋さの果てに歪(いびつ)な愛を向けてきた……。彼らは瑞帆に何をもたらしたのか。恋愛の“業”を描き出す戦慄の長編。
ドラマ版では、自ら望まない罪を犯し、追い詰められていく主人公・木村瑞帆役を伊原六花、恋愛に無関心であったが、ある日を境に瑞帆のことが気になり、支えとなっていく津坂慎也役を佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)、瑞帆に好意を抱き、その思いの深さから猟奇的なストーカー行為をしてしまう郷田肇役を渡邊圭祐が演じる。
シリーズ累計35万部を突破する“禁止”シリーズの中の1作となる『恋愛禁止』。長江は今回ドラマの演出も務め、自ら物語に完全オリジナル要素を加え、原作とは違う予測不能な展開で結末を迎える、恋愛ホラーサスペンス。

|『近畿地方のある場所について』/著者・背筋 概要
行方不明の友人を探しています。情報をお持ちの方はご連絡ください―
近畿地方のある場所の謎に迫る、未体験の場所ミステリー
2023年1月、Web小説サイト・カクヨムに第一話が投稿されると、「これは本当に虚構のストーリー?」「その場所は実在するのではないか」…など様々な反響がSNSで拡散され、小説の世界観に引き込まれた読者の間で、熱を帯びた議論が巻き起こり、瞬く間に大注目作として2,400万PVを超えるヒットを記録。同年8月に単行本化されるや、たちまち人気が爆発。日本全国の書店でベストセラーの棚を独占し、「このホラーがすごい!2024年版」で堂々の第1位を獲得するなど、今もなお読者を魅了し続ける異色作が実写映画化。
行方不明になったオカルト雑誌の編集者。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪、中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々。彼はなぜ消息を絶ったのか?いまどこにいるのか?同僚の編集部員は、女性記者とともに行方を捜すうちに、恐るべき事実に気がつく。それらの謎は、“近畿地方のある場所”へとつながっていたのだった…。すべてが白日のもとに晒(さら)された時、衝撃の結末が待ち受ける。

|自分が見た夢を小説に入れた
――『恋愛禁止』を書こうと思ったきっかけを教えてください。
長江:ある時「禁止」とつく何かを書いてほしいと編集者の方に言われて、ふわっと『恋愛禁止』というタイトルだけが出てきました。そこからおかしな恋愛や狂った恋愛をテーマにしました。別の短編のアイデアで、「自分の犯罪が消えた話っておもしろいな」と思って、確実にその人を殺して逃げたはずなのに、遺体も消えて事件もニュースにならない。一体どうなるんだ。というのを短編で書こうと思ったんですけど、どうしてもそれを書きたくなって「じゃあ、これを『恋愛禁止』にしよう」と言って、(短編と)統合して長編にしました。
――長江さんが実際に見られた夢も元になっているとお聞きしたのですが、そちらについてはいかがでしょうか?
長江:定期的に見る夢で、自分が罪を犯しているんですよね…。多分人を殺して逃げていて、何かに追われているっていう夢で「このままだと逮捕される」と罪に苛まれて、うわー!って起きることがあったので、「夢かと思ったら夢じゃなかった」というのは小説に入れさせてもらいました。ドラマの中でも自分の罪から逃れられない恐怖は、今回テーマとして描いています。

|オカルト的な自分の好きな要素も取り入れた
――『近畿地方のある場所について』を書こうと思ったきっかけを教えてください。
背筋:元々長江さんの作品も含めてホラーが大好きだったので、最初は趣味のつもりで書いていました。『カクヨム』に投稿したら、ありがたいことにご好評いただいて、いつの間にかという感じです。
――場所を“近畿地方”にした理由は?
背筋:関西出身なので、友達から怖い話を聞き集めたら基本的に関西の話になってくるので、タイトルもそのままストレートに『近畿地方』にしました。
長江:私も関西出身なんですけど、近畿地方って、大阪、京都、奈良、和歌山とか、独特のホラー的な空間や歴史が古いものもあるので、怪異がいるのかもしれないっていうリアリティをすごく感じました。
――モキュメンタリー(ドキュメンタリーの手法を使いながら、実際には存在しない出来事や人物をあたかも事実のように見せるフィクション作品)で書こうと思った理由はありますか?
背筋:そもそも小説を書いたことがなかったので、長編を書こうと思っていなかったんです。元々掌編で書いていたので続きを書くとなった時に、引き延ばして長編にするというより、いっぱい掌編を書きたいという欲がありました。ただ、そこに何か1本軸を通さないと作品にできないと思ったので、大きな受け皿として「これは私が集めた」または「誰々さんが集めた記事です」という体裁をとる案にたどり着きました。

――逆に掌編をつなぎ合わせることも難しいのかなと思ったんですが、そういった苦労はありませんでしたか?
背筋:その時は(小説を書いたことがなかったので)長編を書くことの難しさと、掌編をたくさん書くことの難しさを比較することができなかったんです。今考えると、よくやったなというか、大変だったなと思います(笑)
――登場するメイン2人のキャラクターは、どんな風にしたいという思いはありましたか?
背筋:単行本と文庫本で(キャラクターが)違うんですけど、基本的に編集者やライターが(情報を)集めていく設定です。何かを集めるということに対して必然性を持たせないといけなくて、それってパターンがないんです。ネガティブな情報や幽霊が出てくるような情報を、わざわざ自分から集めている人はかなり限られてくると思います。そういう意味では、必然性を追求していくと、その中の1つが編集者とライターだったという感じです。
――妖怪やUMAといった一見ホラーとは少し違う要素もでてきますが、意識的に入れられたんでしょうか?
背筋:そうですね。そもそもオカルトが好きなので、UFOやUMAなど自分が好きなものをたくさんテーマとして取り入れていきました。
――実際に心霊スポットに行かれたりはしましたか?
背筋:いや、ないですね…。(長江さんは)取材行かれますか?
長江:『恋愛禁止』ではなかったですけど、『東京二十三区女』を書いた時は取材に行きました。東京の区ごとの都市伝説や伝承がある事件をテーマにフィクションの小説を書いたんですけど、その場所に行って、実際見ました。
背筋:その場所に行く段階で「何を主題にしよう」と決めていくんですか?
長江:そうですね。例えば板橋区だったら“縁切榎(えんきりえのき)”という名所があって、商店街の一角に祠(ほこら)と榎が立っていて、日常の空間にあるんです。そこの絵馬には「恋人、夫と別れたい」「この社長と縁が切りたいです。従業員一同」「病気と縁を切りたい」とか色んなパターンがあるんです。それが、全部実名で自分の名前・住所・携帯番号まで書いてあって、個人情報が出ている絵馬が300~400以上あるから、負のオーラを感じるんです…。

――『近畿地方のある場所について』は単行本と文庫本で内容が違うということですが、変更した意図を教えてください。
背筋:まず主人公が変わったんです。単行本を買ってくださった読者の方は、早い段階で見つけていただいた、一番大切にしたいファンっていうのは常々思っていたので、そんな方に文庫本を別作品として楽しんでいただけたらいいな、というのが大きな意図としてありました。どう変えようかと思った時に、単行本はドキュメンタリーのリアルさや、そこから立ち上る恐怖を徹底して追求していたんです。だから文庫本では、フェイクドキュメンタリーの中で物語を語っていきたい、という別のテーマを立てて書きました。単行本の方では、ある種ストーリーテラー(物語を語る人)的な役回りだったキャラクターが、意思を持って、人間臭い動きで物語を運んでいってくれる、という風に書きたかった気持ちがありました。
――内容を変更する上で苦労した点は?
背筋:それこそ長江さんは原作をご自身でドラマ化されるっていう所で、同じ大変さや悩みがあるのではと勝手に推察しているんですけど、自分で書いたものを再編集するのって、めちゃくちゃ難しいんですよね。
長江:自己否定のような感覚ですよね…。
背筋:自分の中では育てあげた子どもなのに、もう1回幼児として戻ってきたみたいな感じなので、頭を抱えながら作りました。
――長江さんは原作とドラマのラストを変えたという点で、気にしたことはありますか?
長江:単行本から文庫本にする時もラストを変えたんです。同じように、単行本・文庫本を読んでもらった人を驚かせようと(ドラマでも)ラストを変えています。なので、単行本と文庫本とドラマ版と、全部ラストが違います。(単行本と文庫本より)ドラマ版のラストが一番怖いんじゃないかなと思っていますので、ぜひ期待していただければと思います!

|みんな心の奥底には怖いものに惹(ひ)かれる気持ちがある
――お互いの作品の印象について教えてください。
長江:(率直に)怖いと思いました。近畿地方特有のありそうな歴史的な背景も、ジメジメした感じもすごく出ていて、書いてない行間から滲(にじ)み出る怖さをぞくぞく感じる小説だと思ったんです。僕もホラーとかオカルトが好きなんですけど、オカルト好きってそこまで多いわけではないような気がしていたけど、それが一気にみんなに読まれたから、さらにうれしかったです。こういう世界が認められたっていうので、勇気づけられました。
背筋:私もずっとホラーが好きだったんですけど、日陰者というか…しかもモキュメンタリーなんてジャンルがウケるなんて全く思ってなかったので、本当にびっくりしました。ホラーってそもそも好き嫌いがはっきり分かれるジャンルで、ブームが来たからといって、嫌いなものを好きになる人ってあんまりいないと思うんですよね。だから、一体何が起こっているのかと思っていました。
長江:波はあるにせよ、怖いものは結局みんな好きなんだろうなと思います。重度のオカルトファンとかホラーファンじゃなくても、心の奥底には怖いものや恐ろしいものに惹かれる気持ちっていうのは、みんなあるんじゃないかなと思います。

――背筋さんは『恋愛禁止』についてはどういった印象がありますか?
背筋:私は長江作品ファンなので『恋愛禁止』を拝読した時に、勝手にですけど「長江さんらしさ」と「長江さんらしくなさ」という、二軸を感じました。私の中の長江さんの作品の印象って“ミステリー”で、驚きとか裏切りの連続みたいなことかなと思うんです。そこは何かご自身の中で意識されていたこととかあるんですか?
長江:恋愛の恐怖を描きたいっていうのは前から思っていました。そこに、遺体が消えた、事件が消えた、っていう不条理なことに右往左往する人を、恋愛をテーマに突き詰めて書いていきたいという考えでした。今回のドラマの結末は自分の中では良いと感じていて、単行本、文庫本、ドラマと3種類のラストをやらせてもらって、やっと今回のドラマで完結したんじゃないかと思っています。
――“ホラー”というジャンルを扱う上での醍醐味を教えてください。
長江:ホラーは大好きですけど、自分の作品はホラーと思って作ってないんです。とりあえずおもしろいと思うものを作ったら、それが“ホラー”とか“ミステリー”と言われるという。僕自身は、幽霊とかUFOは信じていなくて、「幽霊がいるから怖い」みたいな恐怖は好みじゃないというか…。興味があるのは、「幽霊が怖いと思ってる人がいる」「UFOがいると思ってる人がいる」っていう、オカルトを信じている人の心理的な面なんです。それを作品に応用させてもらっていて、それが自分の作風だと思っています。
背筋:長江さんのお答えにかなり通ずる部分があるんですけど、恐怖とかホラーを語る上で、物語として語りたいと思っています。「怖い」と同時に、それ以上におもしろいもの、興味深いものを作りたいと思っているので、極論、おもしろければホラーでも、怖くなくていいと思っています。怖さこそがホラーにおけるおもしろさの本質って思われる方もいると思うんですけど、私はどっちかっていうと“怖さ”っていうものをフックにしながら、“おもしろい物語”を書きたいので、そこの部分は忘れずに、これからも作っていきたいです。

【長江俊和プロフィール】
1966年、大阪府生まれ。テレビディレクター、ドラマ演出家、脚本家、小説家、映画監督。モキュメンタリー『放送禁止』シリーズは、不定期な深夜放送ながら、放送開始から二十年以上を経ても依然カルトな人気を誇り、多くのモキュメンタリーファンを生み出した。小説『出版禁止』シリーズは累計で三十万部を突破している。現在放送中のドラマ『恋愛禁止』では監督も務めている。
【背筋プロフィール】
2023年、小説投稿サイト・カクヨムに発表した『近畿地方のある場所について』がSNS上で話題を呼ぶ。同年8月に書籍化され、発行部数25万部というヒットを記録。24年、同作で『このホラーがすごい!2024年版』国内編1位を獲得。現在公開中の映画『近畿地方のある場所について』では脚本協力として参加した。
『恋愛禁止』/著者・長江俊和(角川ホラー文庫/KADOKAWA 刊)
ドラマ『恋愛禁止』毎週木曜日よる11:59~0:54 放送中
読売テレビ・日本テレビ系全国ネット(30局)
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『近畿地方のある場所について』/著者・背筋(KADOKAWA 刊)
映画『近畿地方のある場所について』大ヒット上映中
配給:ワーナー・ブラザース映画
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