「働き盛りの半分以上が週1日も運動していない」松本文科大臣が突きつけた現実と年間12.6兆円の経済効果

2026.7.9 11:45

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松本洋平文部科学大臣の写真

7月8日、東京ビッグサイトで国内最大級の国際スポーツ・健康産業総合展示会「SPORTEC2026」が開幕した。初日には松本洋平文部科学大臣が登壇し、「運動・スポーツを通じた健康インフラの構築による健康活躍社会の実現パッケージ」を公表。続いて河合純一スポーツ庁長官が基調講演を行い、第4期スポーツ基本計画の策定状況やスポーツの成長産業化についてビジョンを語った。運動・スポーツが生み出す経済効果は年間約12.6兆円。その可能性とは。

オープニングセレモニーに登壇した河合スポーツ庁長官は、過去最大規模の開催となった今回の展示会について「本当に多くの企業、官庁、研究機関等が集まり最大規模の開催となることを、大変うれしく、力強く、心強く思っている」と語りかけた。来年4月からスタートする第4期スポーツ基本計画については「スポーツの楽しさで人や地域の可能性を引き出し未来を切り開こう、という大きな狙いの実現に向けてさまざまなアプローチを考えている」と示し「さまざまなテクノロジー、AIやデジタルが進む中であるからこそ、身体性を伴うスポーツの価値はさらに高まってきていると感じている」と述べ、新たなイノベーション創出への期待であいさつを締めくくった。

河合純一スポーツ庁長官らの写真

続いてメインステージに松本文部科学大臣が姿を見せた。中学1年から大学4年まで陸上競技に打ち込み、400メートルで全国大会やインターハイ、リレーで全日本インカレに出場した自らの競技経験を交えながら、「スポーツを通じて今の自分がある」と語り、「今も健康維持のために、週に何回かは走ったり筋トレをしたりしている」と明かす場面も。

「12.6兆円という数字が出てきました。これ、皆さん、何の数字かお分かりになりますでしょうか」。松本大臣がスライドを示しながら問いかける。「日本の国家予算が122.3兆円、文部科学省の予算が5.9兆円。先ほどの12.6兆円という数字が、国家予算の約10分の1、文部科学省の予算の2倍強という非常に大きい数字だということが分かると思います」。この12.6兆円は、筑波大学人間総合科学学術院・久野研究室が試算した、運動・スポーツ実施による心身の健康改善が生み出す年間の経済効果である。具体的には、健康改善による生産性向上と就労期間の延伸で約9兆円、医療費・介護費の削減効果で約3.5兆円という内訳が示された。松本大臣は、この巨額の経済効果の背景にある現状の深刻さにも切り込んだ。55歳以上の就業希望者が仕事に就けなかった理由の約4割が自身もしくは家族の健康問題であること、10代から30代の若者を中心に心の病が増加し休職や離職につながっていること、さらに働く人々の高齢化に伴い転倒による骨折などの労働災害が企業の大きな課題になっていることをデータで示していった。

そのうえで最も力を込めたのが、「働き盛りの現役世代」への問題意識だ。「働き盛りの現役世代の半分以上が週に1日も運動を実施していない」という実態について、1週間の運動実施時間のグラフを提示。20代から50代の世代が「ポコンと引っ込んでいる」と示した。筑波大学の分析による「1日30分×週5日の中強度の有酸素運動」に加え「自重の筋トレ1回10分×週3回」という推奨運動量との乖離は明らかであり、「高齢者の皆様方の健康維持のための運動ということがよく言われるが、我々が問題意識を持っているのは、まさに今、働き盛り現役世代の人たちにいかにして運動をしてもらうのかということ」と訴えた。

松本洋平文部科学大臣の写真

こうした課題認識を踏まえて公表されたのが、「運動・スポーツを通じた健康インフラの構築による健康活躍社会の実現パッケージ」である。パッケージは大きく4つの柱で構成されている。
第1の柱は「現役世代の運動実施率向上」。松本大臣は「現役世代の皆さんは大変忙しい。その中で運動・スポーツを実施する時間を確保するのは大変難しいから、企業の皆様方にもご協力をいただきながら就業時間を活用する取り組みが大事になっていく」と述べ、従業員の運動・スポーツを促す取り組みを行う企業に対し、自治体を通じて支援を行う仕組みを新たに構築したことを明らかにした。企業にとっても従業員の健康がスポーツへの取り組みを通じて生産性向上や企業価値の向上につながる「好循環」を作り出すことが狙いという。
第2の柱は「身近な運動・スポーツの場の確保」。学校の屋外プールを地域と共同利用できる屋内プールとして整備し直すことや、学校体育館を管理の外部委託も含めて地域に開放する「コミュニティジム」化が具体策として挙げられた。「子どもたちのためだけではなくて、地域にもより積極的に開放していくことによって、国民の皆さんの運動・スポーツを通じた健康増進の拠点にしていきたい」と松本大臣は語った。
第3の柱は「ハイパフォーマンスの知見をライフパフォーマンスへ」。トップアスリートのトレーニングデータなどを統合・デジタル化し、将来的には一般の人々も活用できる「スポーツDXデータバンク構想」を推進するという。
第4の柱は「スポーツを楽しむ機運の醸成」。スタジアム・アリーナの複合的施設としての整備・運営に向けた人材育成や民間資金の活用、さらにはスポーツツーリズムの推進などが盛り込まれた。

「健康であり続けたいというのは、国民の共通の願いだと思います。そして、このスポーツを通じて得られるさまざまな経験や人と人とのつながりは、必ずそうした人々の生活を豊かにしてくれるものであると考えております」。松本大臣はそう語り、約12.6兆円という経済効果の大きさを改めて強調。

河合スポーツ庁長官の基調講演は、第4期スポーツ基本計画の策定状況を軸に、より広範なテーマへと展開された。
長官はまず、第4期スポーツ基本計画について「スポーツの楽しさで、人や地域の可能性を引き出し、未来を切り開く」という基本的な方向性を提示。重点課題は3つ。健康インフラの構築、ハイパフォーマンスの知見をライフパフォーマンスへ還元すること、そしてスポーツの価値を地域活性化や社会貢献へ広げることである。計画策定にあたっては、子ども家庭庁と協力し、小学1年生から20代までの意見を取り入れるという新たな試みも行ったことが明かされた。

河合純一スポーツ庁長官の写真

健康増進の具体策としては、生涯を通じてスポーツに取り組むことを推進する「Sport in Life」コンソーシアムや、積極的な取り組みを行う企業を認定する「スポーツエールカンパニー」制度が紹介された。河合長官は「ぜひまだご参画いただいていない企業がいらっしゃれば、先ほどの健康インフラ12.6兆円に貢献しうる団体として一緒に歩んでいただけるとありがたい」と呼びかけ。また、障害のある方々のスポーツを官民連携で支える「U-SPORT PROJECT」、防災とスポーツを掛け合わせた「PLAY BOSAI」、前長官の室伏氏が考案した「セルフチェックと改善エクササイズ」など多彩なプログラムを紹介した。
部活動の地域展開については、少子化の中で子どもたちが10年先、20年先もスポーツや文化芸術に親しめる環境を確保するため、本年度からの6年間で土日の活動を原則全面的に地域展開する方針であること、昨年度の倍増以上となる139億円の予算で自治体をサポートしていると説明。民間企業による支援事例として、練習着のスポンサー、自社のスポーツ施設の開放、社員が地域クラブの指導員になるケースなどが紹介され、「一緒になって汗を流し、指導していくことを通じて健康になり、生き生きと活躍することによって生産性が上がっていく、そんな好循環を作っていける」と語った。
スポーツの成長産業化では、スタジアム・アリーナを核としたまちづくりの模範事例が全国で21カ所選定されたこと、構想段階のスタジアムが36、アリーナが40あることが報告された。「財務価値」と「社会価値」の両輪が重要だとし、スポーツホスピタリティやスポーツDXの推進、他産業との連携を図る「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」の取り組みにも言及。
地域活性化の文脈では「スポまち表彰」やスポーツ文化ツーリズムアワードが紹介され、訪日外国人に人気のスノーリゾート体験やアウトドア、武道などのプログラム開発が進んでいることも伝えられた。直近の国際大会にも触れ、FIFAワールドカップでの日本代表の戦いや、今年9〜10月に愛知・名古屋で開催されるアジア大会・アジアパラ大会への期待を語った。

「皆さんと共にスポーツを通じて、誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けて取り組んでいければと思います」という言葉で講演を結んだ河合長官。学校で、地域で、職場で、スポーツがもたらす効果を社会全体で分かち合う取り組みが動き出している。

文:entax編集部

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