キタニタツヤが明かす、“ゴッホ”を想い書き下ろした新曲『肺魚』制作秘話「自分だけがあまりうまく生きられない瞬間がある」

2026.5.28 21:30

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◆“自分だけが息苦しさを感じる” 書き下ろし楽曲「肺魚」制作秘話

大ゴッホ展「夜のカフェテラス 東京展」の『夜のカフェテラス』と共に映るキタニタツヤの写真
フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス(フォルム広場)』(1888年9月16日頃)   
所蔵先:クレラー・ミュラー美術館

キタニは今回、本展覧会のためにイメージソング「肺魚」を書き下ろした。“絵画の展覧会に対して曲(イメージソング)を書くこと”は自身の作曲家人生で初めてのことだったそうで、「ゴッホの作品の本物を見ることができるというのは、なかなかない機会。絵を見ているときの感覚とか、あとは絵を見終わったあとのなんとも言えない余韻が必ずあって、それを僕の音楽で汚してしまうことは絶対にないようにと、勝手にすごいプレッシャーをめちゃめちゃ感じておりました」と楽曲制作を振り返った。

【以下、「肺魚」に関する取材会トークセッション コメント全文】

──「肺魚」というタイトルも非常に印象的ですが、このタイトルにたどり着くまでの経緯や込められた思いについて詳しく教えてください。

キタニ:“肺魚”というのは、その名のとおり肺がある魚なんですけど、ほかの魚たちがみんな水中で呼吸をして、泳いで、健やかに生きている中で、自分だけ肺呼吸をしなければならないってどういう感覚なんだろう…ということを思ったりしました。きっとみんなが健やかに暮らせる環境は、自分にとってはもしかしたらたまに息継ぎをする必要があるような、ちょっと息苦しさを常に感じているような状況なのかもしれないと思ったり──。

キタニ:あと、肺魚って夏眠(かみん)をするんですね。自分が出した粘液、繭(まゆ)のようなものにくるまって、夏のあいだ眠るんです。夏っていろんな生命が活発に動く時期だと思うんですけど、そんな中で自分一人が自分の殻に閉じこもったり、眠ったりしているというのはすごく示唆的だなと──。

キタニ:みんなにとってデフォルトの環境でも、自分だけがあまりうまく生きられない瞬間があるというのは自分としてもすごく感じるし、ゴッホの作品を見ていて、僕は勝手にそのゴッホに映った自分の姿として『あぁ、自分ってこういう人間だな』と思ったので、その例えとして「肺魚」というタイトルを付けました。

──ゴッホの作品や人生に触れたことが曲作りに影響する部分もあったとか思います。具体的にどのような場面や作品が「肺魚」の音・言葉に結びついていったのでしょうか。

キタニ:『夜のカフェテラス』と『ローヌ川の星月夜』。この2つは、制作の間にすごく影響を受けました。アルルに移り住んできたときのゴッホが、もちろんどういう精神状態だったかは会ったことないんで分からないんですけど、これらの絵を見ている限り、きっと“夜の星空”を描くことに──…言い方がアレですが、めちゃくちゃハマっていたんだろうなというか、すごく楽しんで、何かやりがいがある仕事だとして星空を描いていたんだろうなというのをすごく思いました。

大ゴッホ展「夜のカフェテラス 東京展」の『夜のカフェテラス』の写真
フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス(フォルム広場)』(1888年9月16日頃)   
所蔵先:クレラー・ミュラー美術館

キタニ:よっぽど好きな景色だったでしょうし、自分が精神的にいっぱいいっぱいになったときに、何かそういう美しいもので脳みそを満たして飽和させたい、みたいな感覚──僕はそうなる瞬間がすごくあって…。もしかしたらゴッホも、この絵を描いていたときはそうなっていたんじゃないか、みたいなことを勝手に思いながらこの曲「肺魚」を制作しましたね。

──ゴッホが『夜のカフェテラス』を描いたアルルの夜は、孤独や創作への衝動が入り混じった特別な時間だったと言われていますが、もしキタニさんがその夜のカフェテラスでゴッホと向かい合って一晩だけ話をすることができるとしたら、どんなことを聞いてみたい、あるいは伝えてみたいと思われますか?

キタニ:(ゴッホが)なんでアルルに来たのかといったら、たぶんパリへの疲れみたいなものがあったんじゃないかなと思うんです。当たり前に人口も多いし、そうなれば同業のアーティストの数ももちろん多くて、“競争”も激しくなる。るいは都市部から、南仏の、地中海の暖かい日差しがあって過ごしやすくて…というところに移ってきたので、パリを離れて健やかな朝を手に入れたのかなと。「アルルの暮らし、実際どう?」と(聞いてみたい)。

キタニ:あとは、「健やかさって自分が仕事をする上で大事だよね」「ぶっちゃけ、パリに戻りたいと思う?」とか。僕も、自分がもし東京を離れたら…みたいなことをすごく考えたりするので、本当に──あまりロマンチックじゃなくて申し訳ないんですが、「実際、地方の暮らしってどうですか」という話は聞いてみたいですね。南の暖かいところで暮らすわけですから、沖縄に移住するみたいな感覚なんじゃないかなと。

大ゴッホ展「夜のカフェテラス 東京展」の写真
「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」展示風景、上野の森美術館、2026年

──ゴッホは生涯を通して自分の表現を貫くことに強いこだわりを持ち続けた画家でした。その姿勢は現在のアーティストにも通じる部分があるように感じられます。キタニさんご自身の“これだけは譲れない”という創作上のこだわりや、日々大切にしている表現の軸のようなものがあれば教えてください。

キタニ:自分もやっぱり自分が好きなものをまず描くべきだと思っていて──自分が好きなものの中からみんながなるべく気に入ってくれるものを選べば、それが多くの人に聴いてもらえるんじゃないかというふうに思っているんですけど。でもやっぱり前提として自分が大好きなものでないといけないと思っています。

キタニ:特に自分が──説明しづらいんですけど、メロディーのすごい好きな動きがあるんですよ。歌詞で言うと言葉遣い、言葉の単語の手触りとか、そういうものにすごく自分なりのフェチズムみたいな、俺やたらこういうの好きだなというのがあって。言語化が難しいんですけど。なのでそれを毎回ちゃんと大事に、そこは人に遠慮することなく、自分はこれが好きなんだというのを前面に押し出して書くように意識しています。それを忘れちゃうときっと多分辛くなっちゃうので、それは絶対忘れないようにしようということは常々思っています。

──ありがとうございます。それでは最後に、29日から開幕する大ゴッホ展に来場される皆さんへのメッセージをお願いいたします。

キタニ:僕は絵画鑑賞という経験が今まではなかったんですけど、しっかりゴッホの作品たちに向き合って、“絵画鑑賞は色の付いた鏡を見るようなこと”だなと思いました。「肺魚」を書くにあたって、ファン・ゴッホがどういう人間だったかっていうのは結局自分の想像でしかなく、本当には分からないので、やっぱり自分は自分の歌として「肺魚」を書いたんですね。ゴッホの作品たちを見て、そこに映った── “ゴッホという色”が付いた状態の自分の姿を映し取って音楽にしたものが「肺魚」なので、自分にとってのそういう姿、ゴッホを通して見えた自分の姿を書きました。

キタニ:これからこの展示に来られる皆さんは、本当に100人来たら100通りのまったく違うご自身の姿が映ると思うんですよ、そのゴッホの作品たちに。なので、ゴッホというフィルターを通した“自分との出会い”みたいなものをすごく楽しみにして、見ていただくといいのではないかなと思います。

『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』展覧会概要 
会期:2026年5月29日(金)〜8月12日(水) ※会期中無休 
開館時間:[日~木曜日] 9:00~17:30 [金・土・祝日] 9:00~19:00 ※入館は閉館の30分前まで 
会場:上野の森美術館

【展覧会公式サイト】
【東京展公式ページ】

記事TOP写真:フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス(フォルム広場)』(1888年9月16日頃) 
所蔵先:クレラー・ミュラー美術館
取材・文:entax編集部

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