「楽しむことを忘れずに」――河合長官×小野光希×網本麻里が語る、日本の国際競技力向上プランの未来

2026.5.21 17:15

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河合長官と小野光希と網本麻里の写真

スポーツ庁は5月20日、五輪・パラリンピックなどに向けた強化戦略「持続可能な国際競技力向上プラン」の改定版を公表した。

パラ競技のタレント発掘・育成の体系化、ハイパフォーマンススポーツセンターの機能強化、冬季競技の海外活動支援――。改定のポイントは多岐にわたるが、その根底にあるのは「世界の舞台で活躍できるアスリートを育成し続ける仕組みづくり」だ。

記者発表会ではまず、河合純一スポーツ庁長官がプラン改定の経緯と概要を説明。持続可能な国際競技力向上プラン――通称「サステナブル・ハイパフォーマンス・スポーツ・ストラテジー」は、今回が二度目の改定となる。

そのポイントは大きく2つの柱に分かれる。

1つ目は、パラ競技の国際競技力向上に向けた取り組みだ。2032年ブリスベン大会を見据えた戦略的な発掘・育成が掲げられており、各都道府県など地域ごとに幅広く選手発掘を行い、データを集約していく仕組みを構築すること。そして発掘された選手を評価・検証を通じて育成段階につなげていくことが柱となる。さらに、持続可能な選手強化を支える体制整備として、横断的な情報共有、指導者・専門スタッフの育成・確保、競技団体の組織力強化、地域における医科学支援体制の強化という4つのポイントが示された。

2つ目の柱は、冬季を含むオリパラ共通の課題だ。ハイパフォーマンススポーツセンター西が丘の機能のあり方の検討、NTC競技別強化拠点の機能強化、DX推進を活用した知見の展開、冬季競技選手の海外活動支援、そしてデフスポーツ団体の強化が盛り込まれている。河合長官は「人材、情報、組織基盤、地域支援といった要素を掛け合わせながら仕組み化していくことが大切。日本の独自性や強みを見極めて、持続可能な形で国際舞台で活躍できるチーム、アスリートを育成し続けていく仕組みづくりに取り組んでいきたい」と力を込めた。

続いて行われたのはミラノ・コルティナ2026冬季五輪で銅メダルを獲得したスノーボードの小野光希選手、パラリンピック3大会出場の車いすバスケットボール・網本麻里選手を交えたトークセッション。個人競技と団体競技、そしてオリンピックとパラリンピック。立場の異なる2人のアスリートが『現場のリアル』を語った。

――ミラノ・コルティナ大会で銅メダル、おめでとうございます。これまでの積み重ねの中で、特にどのような経験や環境が世界で戦い続けるパフォーマンスにつながっていると感じていますか。

小野光希(スノーボード):「高校1年生の頃からナショナルチームに所属して国際大会を転戦してきました。冬季競技は国内での活動が限られてしまうので、ジュニア世代からの海外遠征でのサポート、そういう支援が私自身は一番大きな部分だった」

――網本選手にもお伺いします。パラスポーツを巡る環境の変化があったと思いますが、特に今重要だと思っている支えについて教えてください。

網本麻里(車いすバスケ):「一番違うのは、強化拠点としてナショナルトレーニングセンターが使えること。高校1年生、2年生の頃から代表として活動しているけれど、当時は違う都道府県で合宿を行ったり、日程も3日、4日で終わることが多かった。NTCを使うようになってからは1週間、1か月の合宿があったりして、自分たちの活動を継続的に行うことができるようになりました。これは大きく変わったところだと思います」

ミラノ・コルティナ大会での具体的なサポートについても話題が及んだ。

河合長官:「医科学サポートとか、村外の拠点の活用はどんな感じでしたか」

小野光希(スノーボード):「選手村ではJOCから食事のサポートがかなり手厚かった。日本食が食べられて、24時間いつでも使える拠点が同じ建物にありました。スノーボード選手は昼に競技したり夜に競技したりと時間帯がバラバラだったので、そこはかなりありがたい支援でした」

河合長官:「ハーフパイプだと技の判定もある中で、即時フィードバックの仕組みはどうですか」

小野光希(スノーボード):「今はコーチやトレーナーがスタート地点に必ず3人以上配置されています。以前は1人か2人だったので、人員が増えたことがここ数年の大きな変化。確実に少しずつサポートが良くなっているという印象があります」

河合長官と小野光希と網本麻里の写真

今回のプランで大きな柱の一つとなっているパラ競技のタレント発掘。河合長官が網本選手に、車いすバスケットボールとの出会いについて尋ねた。

河合長官:「バスケットを始めたきっかけや、始めた時にどういう情報があったら良かったか、車いすという用具の特殊性も含めて、難しさを共有してもらえますか」

網本麻里(車いすバスケ):「私は本当に恵まれていた人だったなと改めて思います。パラスポーツをまず見つけること自体が難しかったです。元々バスケをやっていたけれど、障害があるので継続できなかった。たまたま両親が家の近くに障害者のスポーツセンターがあることを知ってくれていて、そこに行って職員さんに聞いて車いすバスケの存在を知ったんです。自分の周りにそういう施設がないとか、情報をどうやってキャッチしたらいいか分からないという方々が結構おられる。自分が必ず行くような場所、身近なところにパラスポーツに触れることができたり、体験できたりする機会があるといいと思います」

河合長官:「今回、各都道府県でもやっていこう、医療・福祉・学校等とも連携していこうということも書いていますが、そのあたりどうですか」

網本麻里(車いすバスケ):「そうしていただけると区別がなくなるのかなと思います。病院に行っても情報が少ないとか、病院の方でもパラスポーツを知らない方もまだおられる。障害を持った人がどこでそういうことを知れるのか、教えてもらえるのか、できるのかというのも、もっと情報を発信していくとか、みんなでやっていきたいですね」

続いての話題は「世界で勝ち続けるために何が必要か」。ここで見えてきたのは、オリとパラ、夏と冬を超えた共通の課題だった。

小野光希(スノーボード):「スノーボードはリスクもあるし、ジュニア世代から怪我も多いスポーツ。スノーボード以外の活動にもっと力を入れて、コンディションがいい状態で長く選手を続けられるような仕組みがもっと整備されたらいいなと考えている」

河合長官:「車いすバスケはどうですか?」

網本麻里(車いすバスケ):「車いすはやはり安いものではないです。私でも2年とか3年に1回は新しく変えるので、やっぱり資金が必要になります。さらに、私たちは体育館でないとできないので、地域での体育館の利用がもっとスムーズにできるようになったらいいなと思います。今でもまだ車輪が付いてるものは使えない場所もあります」

河合長官:「学校の体育施設のバリアフリー化はこの5年ぐらいで完全に進めるというのが閣議でも決まっている。改善いただけるように進めなければならないと改めて感じました」

用具の話はスノーボードにも。

小野光希(スノーボード):「スノーボードもかなり用具に頼るスポーツ。多い時は1年に6本の板を消費します。そもそも国内でハーフパイプ競技ができる場所が3か所ほどしかなく限られている。もう少し様々な地域でそのような拠点が増えれば競技人口も増えると思うし、もっと身近な存在になっていくのではないかと思います」

記者からは、海外チームや他国のサポート体制で「日本にもあったらいいな」と思ったことについて質問が飛んだ。

網本麻里(車いすバスケ):「最近サポートを受けることになったのが、パワーやスピードの問題について個人で抱える課題を具体的にサポートしてもらうこと。強い国のチームだと何年も前からそういうプログラムをチームでやっていて、最近私たちも追いついていくようになっているのかなと感じています。データがあったり、具体的なトレーニング方法も、知識が浅い私たちでも分かりやすく可視化できるようになっている」

一方、小野選手からは意外な角度の話が飛び出した。

小野光希(スノーボード):「スノーボードのサポートではなかったけれど、セラピードッグを導入して選手のケアをしている競技があるとお聞きしたことがあります。個人競技なので抱え込んでしまう選手もいる。セラピードッグじゃなくてもカウンセリングだったり、そういう機会がもう少しあれば改善されるんじゃないかなと思います」

河合長官は「今回、ウェルフェアオフィサーやセーフガーディングオフィサーのこともプランに書いているので、しっかり充実させられるようにしていきたい」と応じた。

トークセッションの終盤ではオリンピックやパラリンピックを目指す若いアスリートへのメッセージが送られた。

小野光希(スノーボード):「スポーツならではの怪我に一番気をつけながら、楽しむことを忘れずにスポーツをやっていってほしいです」

網本麻里(車いすバスケ):「一番は楽しむことが大事だと思う。自分が楽しいとか、これ好きだなって思うことに夢中になって没頭してもらいたいです。でも、いろんなことに触れたり体験してもらうことも大事。自分が好きな競技以外でも何か好きなことや趣味を見つけてもらえたら」

河合長官:「アスリートもウェルビーイングがすごく大切な時代。競技におけるキャリアはもちろん、それぞれの人生を大切にしながら頑張っていただきたい」   

文:entax編集部

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