柚希礼音&ソニンのタッグ再び ミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」は働く女性のロック魂があふれている

2023.6.10 20:30

2019年、柚希礼⾳とソニンの競演で話題となったミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」が再演されている。“自由”と“平等”を求めて社会と闘った女性たちのポジティブなパワーが詰め込まれた本作は、同年、読売演劇⼤賞優秀作品賞を受賞。公演期間が短かったこともあって、再演を希望する声が後を絶たなかったと聞く。entax取材班・働く女性部員としてはぜひ観なければ、と飛び込んだ2日目マチネの様子をお届けしよう。

■難しそうだと思ったら大間違い 働く女性のパワーを五感で受け取るロックだった

「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」の原作は、作家ルーシー・ラーコムの回想記「A New England Girlhood(ニューイングランドでの少女時代)」だ。実在の人物サラ・バグリーとハリエット・ファーリーを中心に、19世紀半ばに社会を相手に女性の権利を求めて闘った女性たちの姿が描かれ、全米でベストセラーになっている。

舞台は19世紀半ばのアメリカ。産業革命で機械化が進み、働き方が大きく変わった時代だ。労働者の賃金は上がり、人々は豊かな暮らしを手に入れ始める。蒸気機関車をはじめ交通機関が発達し、都会にはお金や夢を求めて若者たちが集まる。世界中が活気に満ちた時代でもある。

物語も、農村出身の主人公サラ・バグリー(柚希礼音)が、アメリカ北部の街、ローウェルに誕生した大規模な紡績工場に意気揚々と向かう場面から始まる。しかし働き始めると、労働者は機械のように扱われ、時間に追われがんじがらめになる。性別や人種の違いによる不平等、雇用関係や労働時間の理不尽にもぶつかり、憤り悩む。

とは言え、親の世代は女性の働き口すらない時代だったのだから、それに比べたら希望が持てる。女性でも自分の気持ちを言葉にして、発信しても良いという自由も知る。舞踏会にだって行ける。

でも、女性には参政権がない。にもかかわらず労働力だけはしっかり求められる。女性だからされるのだと感じるセクハラやパワハラも当たり前。「男性も女性も同じ人間、それだけは譲れない」。女性工員の一人・アビゲイルが訴えるシーンが印象的だ。

舞台の上で繰り広げられるそんなモヤモヤを見ていると気づくことがある。これって、今も似たようなことが起きていない?

「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」が支持されるのは、すべての働く女性の共感がそこにあるからだ。そして、そんな理不尽や納得いかなさ加減を暗いもので終わらせず、「変えていけるよ」というポジティブな勇気に変換してくれるからなのだ。

「私はまだまだ変われるから」― 喜びも、闘いも、悲しみも表現された舞台の最後の歌唱の、最後の歌詞に身震いした。観終わった後の爽快感と、よしっという気持ちが沸き上がってくる感覚は、五感にアプローチする音楽のせいでもあると感じた。

「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」はロックミュージカルなのだ。オーケストラピットはなく、舞台の奥にバンドが鎮座している。コンダクターも楽器を手にし、曲間にクウィーンとギターが鳴き、劇場がライブ感で満たされていた。

さらに紡績機の動きを模したダンス。クスっと笑わせてくれる演者たちのアドリブ。客席から鼻をすする音が聞こえるくらい涙するシーンありと、「“⾃由”と“平等”を求めて闘う女性の物語」というコピーからは想像もしなかったアゲ感がある。重いのかな、難しいのかなと思っていたが、大間違いだった。

■柚希礼音とソニンが演じる太陽と月のような真逆なキャラクター だから際立つ闘いの歴史

主人公の一人、サラ・バグリーは明るくまっすぐで正義感が強い女性だ。ストレートな性格がゆえに目立つことも多く、周囲からの信頼も厚いためにリーダーとして期待されてしまう。しかし根はほかの女性と変わらない。弱音も吐けば、迷うことも多い。

初演からの続投となる柚希礼音は、そんなサラの困惑を前進する力に変え、紡績工場で働く女性たちのリーダーになっていく姿を見事に表現している。工場で働く女性の声を伝えるため人々の前に立った姿は、宝塚時代の男役を彷彿(ほうふつ)させるほど美しく力強いが、仲間たちと泣き笑いする姿はかわいらしい。

好対照なのが、もう一人の主人公ハリエット・ファーリーを演じるソニンだ。紡績工場の現状を発信する雑誌『The Lowell Offering』の編集者であり、工場側からも広報マンとして認められている。聡明(そうめい)で芯が強いが控えめ。思慮深く、我慢強いがゆえに誤解も生まれ、一人苦悩する姿は観ている側も苦しくなる程の表現力だ。

ハリエットがサラの明るさに影響され、変わっていくシーンがある。ハリエットにとっても、自分の変化がうれしいのだろう。ハリエットの心の変化をソニンは丁寧に演じ、観ている側もうれしくなった。

サラとハリエットは紡績工場で出会い、同じ想いを持つことを知り友情を深め、共にペンで闘う人生を歩むことになるが、そのアプローチ方法は真逆だった。どちらの方法も間違いではないが、どちらも道は険しい。闘った人たちがいたから今、女性が自由に働けているのだなと働く女性にとっては感慨深い作品でもある。

■働く女性みんなが主役 一人ひとりは弱いけれど重なった時は強いと歌声で証明

さらに「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」は、闘いは突出した誰かだけに起きるのではなく、働く女性みんなが主役の物語なのだとも伝えている。それは、サラとハリエット以外の、紡績工場で働く女性一人ひとりのキャラクターが丁寧に描かれ、それぞれの演者の個性によってさらに輝いているからだ。

サラを⽀える⼼優しいアビゲイル役は、初演から引き続いて実咲凜⾳が演じている。病気の弟の治療費を稼ぐために工場で働いているしっかり者なお姉さんキャラかと思いきや、将来なりたい職業があると夢を語るシーンはキラキラしていて応援したくなる。

後に原作者となるルーシー・ラーコムの娘時代役は清水くるみだ。こちらも初演からの続投で、ルーシーのピュアさと元気さと勉強好きな一面をうまくバランスをとって魅力的な少女に作り上げている。ルーシーの存在が、本作の明るさにもつながっていると感じる。

今回初参加となる平野綾は、ザ・女子的なしたたかさと華やかさを併せ持つマーシャ役だ。コミカルな表現を散りばめながら客席に笑いを投じる。その美貌と美しい歌声とのギャップに驚きつつ、作品の楽しさが倍増した。

また、へプサベス役の松原凜⼦は、勝気で口が少し悪い。それもあってか複雑な状況に追い込まれるが、その痛々しさを全身で表していた。

孤児院育ちのグレイディーズ役を演じる谷口ゆうなの歌声は圧巻だ。グレイディーズの孤独やかわいらしさを歌い分け、時に力強い。

能條愛未が演じるフローリアは少し気弱だ。家族のため働いていて、秘密も持っている。引っ込み思案なおびえる仕草に、そういう子いたなと思い出させる自然な演技だ。

そして何より素晴らしいのが、彼女たちの歌声がガチっと合わさるコーラスだ。一人ひとりは弱いけれど、重なった時は強いのだと歌声が証明していた。特に、サラやハリエットの姿を見てそれぞれが変化し、立ち上がり、まとまった時の歌声は光を放つようなパワーだった。

ベーシックなミュージカルのスタイルも大切にしつつ、ロックなカジュアル感のある作品なので、ミュージカルは敷居が高いと思っているミュージカル未経験の方におススメしたい。特に20代や30代の働く女性で「働くって…‥」と迷っている人、パワーチャージをしたい女性には強くおススメする舞台だ。

【公演情報】
ミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」

●東京公演 2023年6月5日(月)~13日(火)会場:東京国際フォーラム ホールC
●福岡公演 2023年6月24日(土)、25日(日)会場:キャナルシティ劇場
●大阪公演 2023年6月29日(木)~7月2日(日)会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

作詞・作曲:クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
脚本・歌詞・演出:板垣恭⼀
出演:柚希礼⾳、ソニン/実咲凜⾳、清⽔くるみ、平野綾/⽔⽥航⽣、寺⻄拓⼈/松原凜⼦、⾕⼝ゆうな、能條愛未/原⽥優⼀、⼾井勝海/春⾵ひとみ  他
企画・製作:アミューズ

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