吉田美月喜 単独インタビュー 主演映画『あつい胸さわぎ』でまつむらしんご監督や常盤貴子に誘われた成長を語る

2023.1.27 07:30

2023年1月27日、監督・まつむらしんごがほれ込んだ演劇ユニットiaku・横山拓也の戯曲が映画化される。映画『あつい胸さわぎ』だ。18歳で患った乳がんに「おっぱいがなくなっても恋とかできるんかな…」と揺れる主人公に抜てきされたのが、映画初主演となる吉田美月喜だ。母親役の常盤貴子とのダブル主演の中、吉田美月喜はどう演技に向き合ったのか。entax取材班が聞いた。

■「一緒に戦ってください」 監督の言葉がいいプレッシャーに

――『あつい胸さわぎ』では長編映画主演ですね。主演を務めた感想を聞かせてください。

私の中に、しっかりしていて現場の雰囲気を良くするという主演像があります。だから私も現場をひっぱらなきゃと思ってはいたんですけど、そんなことぜんぜんできなかった。ですが、主演としての不安はあまりなかったんです。それは、まつむらしんご監督がすごく私自身に寄り添って進めてくださったからだと思います。

通常のオーディションでは台本の一部を演じたりしますが、今回のオーディションでは演技と共に、私がどんなふうに育ってきて、どういう家族で母とどんな関係なのかということを中心に話をしてくださったんです。その時から私に寄り添ってくださる監督だなと感じていました。

撮影の間も私が1人にならないように「心配なことはない?」と声をかけてくださったり、都度話し合ってくださったりしたから、主演としての変なプレッシャーをあまり感じずにいれたのだと思います。

――監督から、18歳で乳がんを患う主人公・武藤千夏を演じるにあたってのリクエストはありましたか?

実は、千夏という役について監督とすごく話したという訳ではないんです。撮影前のワークショップに参加したりもしましたが、俳優としての在り方や主演としてどう在るかといったことはたくさん話してくださったんですけど。

ただ、オーディションの時に「主演として一緒に戦ってくれる人を探しています」とおっしゃっていて、役が決まった時も「一緒に戦ってください」って言われたのは、いいプレッシャーになりました。

だからといって、1人でやれということじゃなくて一緒に寄り添ってくれる。その上、共演の常盤貴子さんや前田敦子さんと「映画に対する情熱がすごい監督だね」って話したくらい、ほんとうにこの映画が大好きな監督なので、監督の存在自体が、私ががんばろうと思えた理由のひとつだったと思います。

『あつい胸さわぎ』って、千夏の大人になるためのちょっとの成長の物語だと思うんです。自分じゃどうにもできないけど、大人になりたいという危うい感じが、撮影当時、千夏と同じ年だった私の等身大の気持ちと重なったので、そこは1番意識しました。

――『あつい胸さわぎ』は、AYA世代(Adolescent and Young Adult / 思春期・若年成人)の乳がんがテーマです。恋の成就もまだな千夏が乳がんと診断された帰り道、怒ったような表情で歩く姿が印象的でした。

撮影に入る前に乳がんについてお医者さんに質問させていただく機会があって、その時に乳がんになった方の日記のようなサイトを教えてもらいました。読ませてもらってすごく印象に残ったのが、診断された時は怒りでも悲しみでもなく「無だった」という言葉でした。

乳がん宣告のシーンではその言葉を参考にした部分もあるんですが、その後の流れは千夏自身の気持ちだなって思って歩いていると、だんだんイライラしてきたんです。

一緒にお医者さんの話を聞いたお母さんの方が、自分より落ち込んでいる感じがする。「なんで? 私のことなのに!」ってイライラというか複雑な気持ち。だからといってお母さんに当たるのも違うし、どうしようもない気持ちが怒ったような表情で出たのかもしれないです。

大人になったと思っている部分もあるのに、なれていない。子どもなんです。けど、泣きたくなるというよりは、理不尽で、「なんで?」っていう怒りの方が強かったかもしれないです。

■常盤貴子さんはめちゃめちゃ格好いい。「こういう大人になりたい」

――この帰り道のシーンはじめ『あつい胸さわぎ』では重い話題の時でも、母親・昭子役の常盤貴子さんとの親子の会話はどこかコミカルで軽妙、観る側をほっとさせてくれるのですが、演じる側は難しくなかったですか?

演じている時は意識していなかったですね。台本にも書かれているし、違和感なく演じていました。だから、東京国際映画祭のワールドプレミアで上映していただいた時に初めてお客さんと一緒に映画を観て、親子の掛け合いで笑いが起きたことにすごくびっくりしました。

撮影後、演劇ユニットiakuさんの舞台『あつい胸さわぎ』再演を観に行かせてもらって、親子の何気ない会話にすごく温かみを感じて、この関西弁のテンポのいい会話のせいかって気づいたくらいなんです。

私が違和感なく演じられたのは、それまでの常盤さんの関西弁の演技のおかげかなって気がします。絶妙な間の取り方や雰囲気の作り方がすごく素敵でした。それに、俳優としてそこにいてくださるだけで安心感が生まれるのは、私の俳優としての新しい目標になりました。

――常盤貴子さんとの会話はほんとうの親子のように自然でしたね。

ありがとうございます。常盤さんは撮影の合間も、ほんとうのお母さんのように私にいろいろ話しかけたり面倒を見たりしてくださっていました。役での親子のような感じのままでいてくれたので、すごく演じやすかったです。私が初めての映画主演だからと思いやってくれていたのかもって思います。

いやもう、めちゃめちゃ格好いいんです。こういう大人になりたいとすごく思ったし、その大先輩のお芝居を直接受け止めることができる機会がものすごく貴重で、共演できてうれしかったです。

――千夏が成長期に母親に言えなかったシコリのような出来事も、この映画のエッセンスになっていますね。

似たような経験を思い出しました。私、ちっちゃい頃はキティちゃんの洋服をよく買ってもらっていたんです。でも中学生になって、サンリオは好きだけどキャラクターの服は着たくないなと思うようになっているのに、母はキャラクターもの洋服を買ってきてくれる。けど、言えないということがありました。

千夏のシコリとはちょっと違いますが、モヤモヤした感じは同じかなって思います。私の場合、中3で「一緒に服を買いに行きたい」って言えたんですが、お母さんの方はまったく悪気なくやっているというところも含めて千夏に共感できました。

――最後に千夏は「がんばれ」と何度も叫びますね。どんな思いを込めていましたか?

面接に向かうター坊に向かって叫ぶシーンですね。気持ち的には千夏自身にも言っている「がんばれ」だと思っていたので、気持ちをいい感じに持っていくためには何テイクもやるもんじゃないと集中していて、あまり記憶はないんです。

映画で使われているのは2テイク目なんですけど、自分では「今の大丈夫だったかな」って思ったくらい。監督がすごく良かったよ、大丈夫って言ってくださったんで良かったなって感じでした。

『あつい胸さわぎ』では私の人生とは違うことが起きているんですけど、共感できる部分が多かったんです。千夏と同じ18歳ということもあって、千夏ががんばっていく姿が、私の現場での成長や学びにすごく重なる部分もありました。

千夏としての役作りをすごくしたというより、かなり私のままを出させていただいていたので、最後の「がんばれ」は、千夏に対しての「がんばれ」と、演技をしている私自身に対しての「がんばれ」にもつながっている。そんな気持ちだったなって今思います。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

人ってみんな、病気にかかわらずいろんなコンプレックスや言いにくいことがあって、それでも言わなきゃいけないこともたくさんあると思っています。

この作品でも乳がんを軸に、青春や恋や親子といった事柄の中でそういった場面が描かれていますが、千夏を演じながら強く感じたのが、周りの人からの見捨てない温かさや見守り続けてくれているという安心感でした。千夏自身それにすごく支えられたと思いますし、演じている私にもその温かさが届いてきた気がしました。

「ゆっくりでいいから、人に寄り添い続ける」というあったかさを、この映画から感じていただけたらうれしいです。

【Profile】
吉田美月喜
2003年3月10日生まれ、東京都出身。近年の出演作品に、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』(20)、『ドラゴン桜』(21)、日本テレビ系『ZIP!』内朝ドラマ『サヨウナラのその前に』(22)、映画『たぶん』(20/監督:Yuki Saito)、『MIRRORLIAR FILMS Season1』の一遍『Petto』(21/監督:枝優花)、『メイヘムガールズ』(22/監督:藤田真一)、鴻上尚史作・演出舞台『エゴ・サーチ』(22)など。2023年には、主演映画『カムイのうた』(監督:菅原浩志)、『パラダイス/半島』(監督:稲葉雄介)が公開予定。また、2月25日から放送予定の日本テレビドラマ『沼る。港区女子高生』にメイン出演が決定している。

映画『あつい胸さわぎ』
2023年1月27日(金) 新宿武蔵野館、イオンシネマほか全国ロードショー
原作:戯曲『あつい胸さわぎ』横山拓也(iaku)
監督:まつむらしんご
脚本:髙橋泉
出演:吉田美月喜 常盤貴子 前田敦子 奥平大兼 三浦誠己 佐藤緋美 石原理衣
主題歌:Hana Hope「それでも明日は」

写真提供:©︎2023映画『あつい胸さわぎ』製作委員会

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