『かがみの孤城』原恵一監督単独インタビュー「声には人柄がはっきりと現れる」

2022.12.26 06:00

■同級生の真田役は絶対に中学生にやってほしかった

――今作のストーリー部分で力を入れた部分はどこですか?

実際に作業に入る前に最初に絶対注意しなくてはいけないと思ったことは、クラスメート・真田をどれだけ憎らしい存在にできるか、そこが大事だぞと思いましたね。真田が憎らしく見えれば見えるほど、こころにお客さんの気持ちが寄っていくと思ったので。しかも真田の声は、絶対に中学生にやってもらおうと思ったんですよ。

真田役・吉村文香

実際に、吉村文香さんという中学3年生の俳優さんに声をあててもらいました。彼女はけっこう甘い声をしているので、この声で真田をやったら絶対いいなと思って。吉村さんにとって真田の声を演じたということは、辛い仕事だったかもしれないです。だけど、本編を観たあと喜んでくれていたから良かったです。僕以上にプロデューサー陣が心配していましたね。俳優として顔を出して売り出している中学生の女の子に、こんな悪役をやらせるっていうことにためらいがあったらしいんだけど、引き受けてくれて。僕も吉村さんには「悪役でごめんね」と言ったんだけど、マネージャーさんが「これから俳優を続けていく限りは、ヒロインばかりはできないんだからいいんです」と言ってくれて。

真田のセリフには、ドキッとする場面がありましたよね。おじさん達がみんなアフレコ聞きながら「怖い怖い」って言っていましたよ (笑)。

こころ役・當真あみ

■ヒロイン役・當真あみさんの声は「こころの声そのもの」

――かがみの孤城に集う7人の少年少女それぞれの声のキャストについて、選ばれた理由やアフレコに立ち会ってみてどうだったか教えてください。まずは、主役のこころを演じた當真あみさんからお願いします。

プロデューサーチームが1,000人くらいに当たってくれて、50人ちょっとに絞られた段階で声を聞いたら、もちろん売れている大人の俳優さんも新人さんも入っていて。その中に當真さんもいました。そこから約20人を選んで、リハーサルのような感じで物語の中から何シーンか選んでマイクテストをしました。原作でも冒頭にもある「たとえば、夢見る時がある」という、こころのモノローグを言ってもらったり、あとはお城の中で出会うリオンくんとのやり取りや、お城での女子グループでのやり取りを、僕が相手役となりテストしました。もうちょっと次は悲しみを出そうか、といった形でテイクを重ねて、一人30分くらい時間をかけてマイクテストをし、後からその録音をじっくり聞き返して選んだのが當真さんです。

――決め手となったのはどこでしょうか?

當真さんの声が一番、僕が思うこころの声に聞こえたんですよね。みんなマンガとか小説を読むときに、頭の中に浮かぶ声ってあるじゃないですか。それが実際に映像化されたときに違っていたら、「違う」「これじゃない」って思ったりしますよね。でも、當真さんに関しては、「この子だ!」って思ったんですよ。

アキ役・吉柳咲良

■吉柳咲良のアキは想像を超えて上手かった

――16歳の當真さんは、声のお仕事は初めてだったと聞きました。実際のアフレコでの様子はいかがでしたか?

そう、声優をやるのは初めてだったみたいですよ。でも僕は彼女に上手さを求めていたわけではないんですよね。 拙さみたいなものが、こころらしいと思ったんですよ。拙いんだけど彼女なりに何かを一生懸命伝えようとしている、その姿勢を一番感じたのが當真さんでした。上手さで言うと、アキ役の吉柳さんが一番上手かった。

――こころがお城で出会う、ちょっと大人びた少女・アキ役の吉柳咲良さんですね。

そう。彼女は抜群に上手かった。だからアキ役がぴったりでした。ちょっと想像を超えましたね、吉柳咲良のアキは。

――アフレコ中にどんどん上手くなっていったという感じですか?

いや、最初から上手かったですよ。あるシーンで、テストの時にちょっと物足りなかったので、テスト後にブースに飛び込んでいって、すごく熱く語ったのが印象に残っています。君はもっとできるだろうって。

リオン役・北村匠海

■北村匠海、麻生久美子、宮﨑あおい……声には人柄や品格、知性が出る

――イケメンのサッカー少年・リオン役を演じた北村匠海さんはいかがでしたか?

良かったですよ。びっくりするくらい合いましたね。素晴らしい勘というか……彼の持っている人の良さというか、人柄の良さというものが声に出ているんじゃないかな、という気がしましたね。

やっぱり声って人柄が出ると思うんですよ。 声を聞いただけで嫌な感じの人っているじゃないですか。しゃべり方とか声質とか。声だけを聞いて判断するという仕事をやっているもので、そういうことを意識するようにはなりましたね。

僕が麻生久美子さん(原監督作品では常連で、今作ではこころの母親役)の声が好きなのは、やっぱり品なんだよね。品があるし、温かい人柄みたいなものが感じられるし。宮﨑あおいさん(原監督作品3回目で、今作ではフリースクールの先生役)の声はすごく知的。ずっと(アニメ監督として)手書きの絵と声を合わせるという作業をしていますけれども、やはり架空の人物にしても性格というものがあるわけじゃないですか。そうするとそれにぴったり合う声というのが絶対あるはずで、そういう選び方をしていけば間違いはなかなか起きないんですよ。見た目と同じぐらい声って個性が出るんじゃないかな。そんな気がしませんか? だって見えない場所から呼ばれても、その人を見る前に誰か分かったりするじゃないですか。


スバル役・板垣李光人

――飄々(ひょうひょう)とした雰囲気のキャラクター・スバル役の板垣李光人さんはいかがでしたか?

彼も、彼自身の穏やかな人柄が声に出ているよね。(役柄と声が)ハマったなと思いましたよ。

フウカ役・横溝菜帆

■フウカ役の横溝菜帆さんはリアル中学生。ドラマを見て感じた「天才子役現る!」

――ピアノが好きなフウカ役の横溝菜帆さんはどうでしたか。

僕は横溝菜帆ちゃん、気に入っているんですよ。TVドラマ「義母と娘のブルース」で娘の子ども時代を演じていた子で。 そのドラマを見て僕、横溝さんのあまりの上手さにちょっと驚いたんですよ。「天才子役現る!」と思って。ちょうどその頃に前作『バースデー・ワンダーランド』(2019年)の主役オーディションを始めていた頃だったので、急きょ彼女を呼んだくらいでね。結果、主役にはならなかったんだけど、仲間外れにされてしまう主人公の同級生役をやってくれて。すごく上手かったので、次回作は中学生の話だからぜひ出てね、と話していたんです。横溝さんは中学3年生なので、7人の少年少女の中で、彼女だけがリアル中学生です。フウカってちょっとおとなしめの内向的な子で、でもその役をうまくつかんでいたな、と思いましたね。横溝さん自身は、フウカは自分とは正反対の性格だって言ってましたけどね。

■高山みなみ、梶裕貴……いつものアフレコより少しお芝居を弱くしてください、とお願いした

――皮肉屋でゲーム好きのマサムネ役・高山みなみさん、マイペースでほれっぽいウレシノ役の梶裕貴さんは声優さんですね。

やはり本職の声優さんも入れようというのはプロデューサーチームの提案でもありました。高山さんに関しては僕の思いつきで、マサムネってちょっとコナンくんみたいだなと感じたのでお願いしました(笑)。

ウレシノ役・梶裕貴

――梶さんは役柄の声が高くて、最初は梶さんとわからないくらいでした。

それは上手かったですよ。いま一番旬の声優さんですからね。やっぱりさすがだなと思ったし、他のキャストが中学生や高校生、顔出しをしている俳優さんということもちゃんとわかっていらっしゃったので。僕自身も、いつものアフレコより少しお芝居を弱くしてくださいと、なるべく失礼にならないようにと思いながらお願いしちゃいました。リアル中高生と声優らしい強い声の演技が並ぶと、別世界の人になっちゃうかな、と思ったので、そこはお願いしてちゃんと対応していただきました。高山さんにも同じようにお願いをしました。高山さんには、(洋画の)吹き替え版の少年にあてるような感じで、というお願いをしたんです。

原恵一監督

■コロナ期間中に映画の脚本を3本書いた

――最後に、今後決まっている予定や目指すところなどあれば教えてください。

次の仕事はまだ何も決まっていないんです。ここ数年、コロナでずっと家にいて暇な時間が長かったということもあって、最初は配信で映画やドラマばかり見ていたんだけど、そのうちうんざりしてきちゃって。さすがに何かやった方がいいんじゃないかなと思い始めて。自分の頭の中にあったアイデアを形にしようと、映画の脚本を3本ぐらい書きましたよ。それはもう勝手に書いた作品だから、製作費が何十億円になるかわからないけどね(笑)。

――それは3本ともアニメ作品なんですか?

いや、実写もアニメも両方書きましたね。それが無駄にならないといいなと思っています。

【原恵一監督Profile】
1959年7月24日生まれ。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)で大きな話題を集め、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(02)、『河童のクゥと夏休み』(07)で日本での数々の賞を受賞。また、アヌシー国際アニメーション映画祭で受賞した『カラフル』(10)、『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(15)ほか、『バースデー・ワンダーランド』(19)など、海外でも高い評価を受ける日本を代表するアニメーション監督。2018年には芸術分野で大きな業績を残した人物に贈られる紫綬褒章を受章。アニメーション映画監督としては、高畑勲監督、大友克洋監督に次ぐ史上3人目の快挙を成し遂げ、国内外から新作が待ち望まれている。

【映画『かがみの孤城』Story】
学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに「オオカミさま」と名乗る狼のお面をかぶった女の子が現れ、約1年間の期限内に「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う。
果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか?
それぞれが胸に秘めた<人に言えない願い>とは?

【作品情報】
『かがみの孤城』 12月23日全国公開
<声のキャスト>
當真あみ 北村匠海
吉柳咲良 板垣李光人 横溝菜帆 ・ 高山みなみ 梶裕貴
矢島晶子 ・ 美山加恋 池端杏慈 吉村文香 ・ 藤森 慎吾 滝沢カレン/ 麻生久美子
芦田愛菜 / 宮﨑あおい 
<スタッフ>
原作:辻村深月「かがみの孤城」(ポプラ社刊)
監督:原恵一
主題歌:優里「メリーゴーランド」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
脚本:丸尾みほ
キャラクターデザイン:佐々木啓悟
ビジュアルコンセプト/孤城デザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:富貴晴美
企画・製作幹事:松竹 日本テレビ放送網
制作:A-1 Pictures

©2022「かがみの孤城」製作委員会

関連記事

注目記事

新着記事

映画・舞台の記事一覧

カテゴリ一覧