『あなたの番です』プロデューサー単独インタビュー 全てのはじまりは“同調圧力と疑心暗鬼”
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2019年に社会現象にまでなった大ヒットドラマ『あなたの番です』。その劇場版が11月18日の『金曜ロードショー』で地上波初放送される。entax取材班は、ドラマだけでなく劇場版でもプロデューサーを務めた鈴間広枝さん(日本テレビ)に、改めてドラマの撮影秘話と、多くの人に愛された今作品の魅力について聞いた。
■大人数でも各自の個性が発揮された、愛ある脚本
――ドラマ『あなたの番です』は、もともとどんな作品にしたい、どういったメッセージを届けたいといったコンセプトで企画されたのでしょうか?
最初は秋元康さんとお話している中で「同調圧力とか、疑心暗鬼が連鎖していくといったことが怖いね」といった話題が出て。“得も言われぬ恐ろしさ”みたいなものがテーマだったと思います。実際にドラマの中で主人公が住むマンションの住民会で交換殺人ゲームが提案された時、嫌と言えない感じがあったり、ゲーム通りに殺人が起きていった時に、「ひとつ屋根の下にいる誰かがやっているのか?」といった不安が渦巻いていたりして。放送される前は、「そういうところが盛り上がるといいね」といった話をしていました。
――『あなたの番です』は、2クールという長丁場のドラマだったことも特徴的でした。
このドラマは人がたくさん出てきて、関係性も複雑になっていくので、2クールあってよかったと思います。折り返し地点では、大きな仕掛けがありましたし。ただ前半は「誰が誰を殺して、どういう気持ちでどういう風に変化していって、事前にこういう風に疑われる」といったことを緻密(ちみつ)に作っていたんです。
でも後半は着地点を決めていたんですけれど、スケジュールもどんどん大変になってきて…。まさに綱渡りという感じでした。その一方で、視聴者の方々から大きな反響をいただいていたので、それを受けて「この人を怪しくしよう」とか、柔軟に対応できたことはよかったですね。

――確かに、登場人物は非常に多かったですね。
レギュラーのキャストが40人近くいたので、本当に多かったと思います。でも愛着がわいてきた頃にみんな死んでいってしまうから、すごく寂しくて。誰かが殺されるたびに「ああ~」と複雑な気持ちでした。
――人数が多くても、一人ひとりのキャラクターにそれぞれ背景があって、みる側も自然に愛情が抱けるようになっているのも、すごいと感じました。
それは脚本を担当された福原充則さんのお力が大きいと思います。もちろん推理ものとして、その人の行動理由とか、どういう考え方をするのか、といった説得力のあるキャラクター設定があらかじめあるんですけれど、実際に脚本になった時に、福原さんが役者さんの特性を生かした形にしてくださって。福原さんは舞台の演出もされているので、役者さん一人ひとりが生き生きする形を深く理解しながら書いてくださっていたんです。
演じがいのある本になっていて、たぶんキャストの皆さんは、「どんな宿題を今度は投げられるんだろう?」とワクワクされていらしたと思います。たとえば生瀬勝久さんだったら、もともと劇団をやっていらして、舞台への愛が深い方ですけれど、役柄の田宮も人を殺したことによって劇団に入り、生き生きしていましたよね。それから榎本早苗を演じる木村多江さんが、いい奥さんから豹変するところとか。横浜流星さんも「空手の世界一なんですよ」という話から、秋元さんが「アクションやってもらおうよ」となって、福原さんが粋なト書きを書いて下さって。どーやん(二階堂忍)は、実はすごく動けるというキャラクターになりました。
さらにキャストの皆さんが演じてキャラクターを魅力的にしてくださるからこそ、「じゃあ、今度はこんなことしてみよう」となって、相乗効果でキャラクターの深みが増していったのではないか、と思います。

――今、生瀬勝久さん、木村多江さん、横浜流星さんのお話が出ましたが、このキャストだから実現できたと思われるシーンやエピソードを教えていただけますか?
まず、原田知世さんが菜奈ちゃん(ヒロインの手塚菜奈)を引き受けてくださったのは、絶対的に大きくて。知世さんの持ってらっしゃる女神感というか、何者にもけがされない感じが、中盤の展開に対して非常にインパクトを与えてくださったと感じています。

あと尾野ちゃん(尾野幹葉)は奈緒さんが演じてくれたからこそ、どんどん跳ねるキャラクターになっていって。緑の毒霧を吹く、みたいなところまでいったのは、たぶん奈緒さんでなかったら、ならなかっただろうな、と思うんです。
あとは刑事コンビ。浅香航大くん演じる神谷将人という役は、悪いことをしていたので、当初は警察を辞めてフェードアウトする予定だったんですよ。でも神谷も皆川猿時さん演じる水城洋司も非常に人気があって、「1回、真剣な猿時さんを見てみたい」という思いもあって、神谷を派手に殺させようと。猿時さんの違う面も見られて、すごくよかったと思いますね。
――視聴者からの声で、ストーリーは少しずつ変わっていったのでしょうか?
そうですね。着地点は決まっているけれど、通るルートは結構、皆さんの反応を見ながら、というのはありました。
■コンテンツの得も言われぬパワーが、多くの人に愛された理由だと感じている
――たとえば後半、ドラマが大いに盛り上がってきた段階で変わっていったことはありましたか?
最初に交換殺人が提案された時は、14人ぐらいの人たちがワンシーンにいて。結構長回しで、お芝居の達者な人たちばかりの撮影で、まるで舞台みたいでした。キャストの皆さんが「お芝居をするのが楽しい」と感じてくださるようなシーンが多かったから、始めから現場の空気自体はすごく良かったんです。あと「会う人ごとに“すごく面白いね”と言われるんだ」と皆さんおっしゃっていて、それが励みにもなっていたようです。
さらに「犯人は誰?」とすごく聞かれたそうで(笑)。最初は主演の田中圭さんも、あえて知らなかったんですよ。ただ次第に分かってくるわけで。そうしたらみんなで秘密を守る、という結束力で固まっていったと感じています。

――なるほど。
前半は見ている方も、仕組みが複雑すぎて、「何が行われているんだろう?」という心境だったと思います。菜奈ちゃんが殺されてしまったことで、一番悪い奴がいるらしい、といったことが分かって。その謎を解くという一つの方向性が明確になって、より盛り上がっていった気がします。
――放送中に日本のドラマ史上初のTwitter世界トレンド1位を5度獲得されましたが、あれだけのブームを巻き起こすほど話題になった要因は何だと思われますか?
なぜなのかは、正直分からないんですけれど、テレビならではの同時性とか、一種のお祭り感みたいなものが次第に醸成されていったのかな、と思います。ちょっと怖いドラマだけど、誰かと一緒に見れば怖くない、とか。“ああでもない。こうでもない”と話したくなる、といったいい要素がかみ合っていった、というか。
秋元さんのちょっと想像できない斜め上をいく斬新なアイデアと、福原さんの愛のある脚本、そして演者さんが生き生きと演じてくれるという、コンテンツ自体の得も言われぬパワーが要因かな、と思います。そして視聴者の皆さんと一緒に作っている感じがして。見てくださる方の意見にはもちろん左右されていたし、一緒に育てていただいた作品だと感じているので、本当にありがたかったと思っています。
【鈴間広枝 Profile】
日本テレビ プロデューサー 日本テレビ入社後、情報番組を6年半ほど経験し、その後バラエティへ。『ザ!世界仰天ニュース』を担当している途中でドラマの企画が通り、単発ドラマの現場に行くことに。ドラマ制作のプロデューサーについて、脚本作りからキャスティング、現場と一通り体験し、その面白さに魅了されてドラマ制作に異動。『東京タラレバ娘』(2017年)、『私たちはどうかしている』(2020年)、『真犯人フラグ』(2021年)など数々のドラマ作品のプロデュースを手掛ける。
11月18日(金)よる9時00分~11時54分(60分拡大)
『あなたの番です 劇場版』(2021)地上波初放送・本編ノーカット
◆企画・原案:秋元康 ◆脚本:福原充則 ◆監督:佐久間紀佳
◆音楽:林ゆうき 橘 麻美
◆出演:原田知世 田中圭 西野七瀬 横浜流星 浅香航大 奈緒 山田真歩 三倉佳奈
大友花恋 金澤美穂 坪倉由幸(我が家) 中尾暢樹 小池亮介 井阪郁巳
荒木飛羽 前原滉 大内田悠平 バルビ― 袴田吉彦 片桐仁 真飛聖
和田聰宏 野間口徹 皆川猿時 / 門脇麦 酒向芳 田中哲司 徳井優
田中要次 長野里美 阪田マサノブ 大方斐紗子 峯村リエ 竹中直人
木村多江 生瀬勝久