東京バレエ団『白鳥の湖』 “黒”が物語を動かす——ブルメイステル版ならではの劇的世界が再び
東京バレエ団が2026年9月、ブルメイステル版『白鳥の湖』を上演する。会場は新国立劇場オペラパレスをはじめ、京都、西宮、堺を巡る全国ツアー。数ある『白鳥の湖』のなかでも、日本でこの版を上演しているのは東京バレエ団のみであり、その圧倒的な演劇性とドラマティックな構成から、“一度観ると忘れられないヴァージョン”として高い支持を集めている。
『白鳥の湖』といえば、白いチュチュに身を包んだ白鳥たちの幻想的な群舞を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、ブルメイステル版最大の特徴は、むしろ“黒の世界”にある。第3幕の舞踏会では、悪魔ロットバルトと黒鳥オディールが王子を誘惑するため、各国の踊り手たちとともに怪しくも美しい輝きと力強いエネルギーにあふれた舞台となっている。通常の版では余興として描かれるディヴェルティスマン(各国舞踊)が、この版ではすべて“王子を欺くための仲間たち”として機能しており、物語そのものに深く組み込まれているのだ。

なかでも見どころとなるのが、“黒鳥のパ・ド・ドゥ”。オディールによる32回転フェッテを含む技巧的な踊りに加え、舞台上の全員が一体となって王子を追い込んでいく構図は、他版にはない迫力を生み出している。単なる技巧披露ではなく、“物語としてのバレエ”を徹底して追求した演出こそ、ブルメイステル版の真骨頂である。

一方で、“白の世界”も圧巻だ。第2幕では、白鳥たちによるコール・ド・バレエが幻想的な湖畔を作り上げる。東京バレエ団の群舞は世界的にも高く評価されており、精神性を感じさせる統一美が大きな魅力。静寂のなかで波のようにうねる白鳥たちの動きは、クラシック・バレエの醍醐味(だいごみ)そのものといえる。

また、ブルメイステル版では踊りの後の“お辞儀”を極力排除し、物語の流れを止めない工夫が施されている。貴族と農民の身分差や、王宮社会の息苦しさなども細やかに描かれ、バレエでありながら濃密な人間ドラマとして成立している点も特徴だ。
今回の公演には、マリインスキー・バレエのファーストソリストである永久メイがゲスト出演するほか、秋山瑛、沖香菜子ら東京バレエ団を代表するダンサーたちが集結。王子役には柄本弾、宮川新大、大塚卓らが名を連ねる。
(写真:Koujiro Yoshikawa)
(文: 和田 弘江)

≪公演概要≫
東京バレエ団ブルメイステル版 『白鳥の湖』 全4幕
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
改訂振付:ウラジーミル・ブルメイステル、(第2幕)レフ・イワーノフ/アレクサンドル・ゴールスキー
装置デザイン:エレーナ・キンクルスカヤ
衣裳(いしょう)デザイン:アレクサンドル・シェシュノフ
衣裳製作:ティマート・プロダクション
◆東京公演
2026年9月9日(水)〜13日(日)
会場:新国立劇場オペラパレス
ほか、京都・西宮・堺公演あり。

