【後編】「たぶん、死ぬ間際でも乞わないと思う」ネズミの“本名”への紫苑の思いとは?幻の構想も大公開!『NO.6 再会』【あさのあつこ 独自インタビュー】

2026.6.19 17:00

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『NO.6』あさのあつこ写真

『NO.6』の作者・あさのあつこにインタビューした本シリーズ。後編では、裏話が盛りだくさん。『再会#1』で紫苑がネズミの髪ゴムをとる描写は、最初はなかった?このシーンに込められたあさのあつこの熱い思いとは?ネズミの本名にまつわる話も…。さらに、“作家・あさのあつこ“がどのように物語を書いているのか、書く原動力についても聞くことができた。
※最新刊『NO.6 再会 #3』までのネタバレを含みます
《インタビュー前編はこちら》

『NO.6 再会 #3』
崩壊した理想都市の瓦礫(がれき)から新都市をつくる、真っ直ぐな少年たちの熱い戦いの物語。
過酷な荒野を生き抜くネズミと、新国家の再建に挑む若きリーダー・紫苑。“NO.6”を狙う陰謀とともに荒野の圧倒的な美しさと、人間の業の恐ろしさが描かれる本作。刺客の襲撃を逃れ、ついに紫苑たちの元へ帰還したネズミ。そこで明かされたのは、残酷な真実だった。すれ違い、激しくぶつかり合いながらも、逃げずに共に戦うことを誓う2人。新たな戦いが今、幕を開ける。

あさのあつこ

あさの:『beyond』を書いたときにはほとんどありませんでした。ただ、お父さんのことがずっと引っかかってはいたんですよね。でもこんな悪いやつだとは思ってなかった(笑)名前って、大体音で浮かぶんですよ。それに漢字を当てはめる。お父さんの名前は“RAIKU”だなと思ったときに、色々と漢字を当てはめてみたんですけど、あの字面が1番自分の中でピタッときて。

“懼”は、恐れるという意味もあるじゃないですか。まだ全然出てきていませんが、ただの調子のいいだけの悪人ではなくて、たぶん、ネズミが恐れる紫苑の正体よりも、さらに恐ろしいものがある人なのかもしれない。単にNO.6を崩壊させて、高官たちが帰ってきやすいようにする先兵みたいな役割を担うだけではなく、もうちょっと違う生き方をしてる人だろうなと思っています。

あさの:そうですよね。そのあたりも含めて何を考えているのか…。でもわからないって怖いじゃないですか。そこも含めてこの字がいいかなと思いました。

あさの:そうなんですよ。演じるとかではなくて、すごく優しくておもしろくて、ちょっと調子のいい一面もありながら、撃ち殺されていく人たちを黙って見ていられるような底知れなさがある。でもそれは底知れなさの一端にすぎなくて、本当はもっと違うことを考えてるんだろうなと思っています。来懼はNO.6を前の形に戻そうとしてる、つまり完璧にネズミの敵じゃないですか。そういう人間が自分の父親だということに対して、紫苑はどう思うんだろう。(『再会#3』で)「関係ない」とか言っちゃってるので…。「関係ないんかい!」と思いながら書いてましたけど(笑)でも、まだ紫苑自身が来懼の正体には全然触れてもいないわけですよね。顔も知らないので。

あさの:やっぱりネズミに対しての圧倒的な敵、自分に対しての敵になるときに…どうなるんでしょうね(笑)

あさの:最初に書いたときにはあったんですよ。「全快祝いに教えてやるから」(#1)って約束してるじゃないですか。だから最後までにはちゃんと紫苑に自分の名前を告げるんだろうなと思っていたのですが…。「あれ、告げないな?」って(笑)そしたらなんかもう、私の中でほかの名前なんてどうでもよくなってしまって。名前がわかったとして、ネズミ以外の名前で私は彼を呼べるか?と。そう考えたときに、すごい違和感があって。紫苑も「きみの名前を教えてくれ」とは、ほとんど乞わないじゃないですか。たぶん、死ぬ間際でも乞わないと思う。ネズミはネズミなので、名前を考えてたけどいるかな?と。今はそういう気持ちです。

あさの:私、髪のちょっと長い男が好きなんです。影山徹さん(※『YA!ENTERTAINMENT』での出版時の表紙・挿絵等を担当)の画でも表現していただいてますけど、「長かった髪は、耳が隠れる程度の短さになり」(#1)というのは、すごく短い髪型ではなく、ちょっと後ろを長くしているイメージでした。『再会』でも肩ぐらいまでの長さで、髪を下ろしている姿の挿絵がありますが、ネズミは外へ出るときは結ぶんですけど、わりと下ろしたまま過ごすことの方が多いんじゃないかな。でも、やっぱりアニメのイメージもすごく強くて。パイナップルヘアー、似合うしかっこいいなと思ってます!

あさの:髪ゴムを取らせたかったんです!(笑)実は、最初の原稿にこの描写はなかったんですよ。でも2年ぶりに会ったなら、ネズミはともかく紫苑ってもうちょっと…、こだわるといいますか。あっさりキスして、事件があったから飛び出していくのだと違うなと思ったときに、どうしてもあのゴムを取りたくて。

あさの:そうそう、だからもういいや!と思って(笑)ネズミが髪を結んでいない、という意識はあったんですけど、編集の方に「ネズミの髪ゴムを取ってもいいですか?」とメールで聞いたら、「ご存分にどうぞ!」とお返事をいただいて。ある意味すごく性的なシーンでもあるじゃないですか。紫苑が…あんなにオタオタしていた子が、そういうことをしていいのかなとも思ったんですけど…。あのシーンを書きたかったので、髪を結ばせました。

…さらに言うなら『再会#2』で、髪ゴムを渡したかったんです!
紫苑がポケットから髪ゴムを出して、それをちゃんとネズミに渡したかった。

記者:貴重な裏話、ありがとうございます!!

あさの:ないです! 荒野をネズミが旅するシーンを書くにあたってわりと最初から、突然に花が開くシーンの中に彼が立っている、というイメージがありました。もう少し派手な色が多いらしいんですが、実際、砂漠の中で突然咲く花もあるじゃないですか。でも、白い花しか浮かばなくて。ネズミが立ってるんだったら白い花だろうなと。だからあのシーンは完全なる創作です。

あさの: 例えばキスをする、ケンカをする、イヌカシたちとわちゃわちゃやっている…でも、シーンが先に浮かぶんですよ。でもそのシーンがどういうふうに物語に結び付いていくのかは(浮かんだ時点では)まだ全然わからなくて。それがちょっとずつ結び付いていくと“物語”が書けるんですけど。

あさの:私の場合、あらかじめ決めたストーリーの中に彼ら2人を落とし込むのではなく、 “書きたい人”が見えてきたら「じゃあ彼なら・彼女ならどう動くか?」とか「彼らならたぶんこれしかないだろう」と進んでいきます。だから(私が)前にいるんじゃなくて、後ろから一生懸命追いかけてるっていう感じ。その道中で彼らが見せてくれるものを文章として書き写していくっていう感じが1番近いかな。

あさの:カカオ80%、90%のビターチョコレートを食べてます。書けないときはずっとポリポリ食べてるかな。あと『バッテリー』のときは少年野球用の軟式ボールをずっと握ってました。野球をしたことがなく、ボールの感覚というものを全然知らなかったので「ボールの感覚ってなんだろう?」と、ちょっと自分を安心させたくて。(握りすぎて)真っ黒になりました(笑)

あさの:色々あるんですけれど…。ひとつは、読んでくださった方の声、読者カードやお手紙でしょうか。だって、架空の話じゃないですか。それなのに、ここにいる人のようにリアルに捉えて、自分と対比させて考えてくださってる。それがすごい励みになるし、ものを書く者の冥利に尽きるなと思います。
でも1番はやっぱり…、自分の中に“書きたい人”がいるから。

「紫苑とネズミのことが大好きなのに、書ききれなかった」という思いがずっとありました。実は『バッテリー』のときもそうで…。『バッテリー』も未完なんですよ。まだ自分の中には「“巧”っていう少年を追いきれなかった」という思いがあるんです。『NO.6』ですごい挫折感を味わったときに「今回もか」と。これで終わったらまた同じことになってしまう、それはできないなと。『NO.6』ならまだ追えるんじゃないかと思うのに、14年かかったんですけど…。私しか書ききる者はいないので「もう1度挑戦してみよう、彼らはまだ私の中にいる」と決意しました。

あさの:そうですね。紫苑とネズミがこれからどういう生き方をしていくのか、彼らの心の内を知りたいです。どういう人間なのか、どういう関係を結んでいくのか。関係を結んだ先にどういう世界が現れるのか、知りたいことだらけなので。そういう“書きたい人”がいることが、書く原動力になってます。

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アニメ『NO.6』15周年、あさのあつこ作家生活35周年という節目である2026年。今秋発売予定の『再会#4』、そして今後の施策にも期待が高まる。

【あさのあつこ Profile】
岡山県生まれ、在住。大学在学中より児童文学を書き始め、小学校講師ののち、1991年『ほたる館物語』で作家デビュー。1997年『バッテリー』で第35回野間児童文芸賞、2005年『バッテリーⅠ~Ⅵ』で第54回小学館児童出版文化賞を受賞。『NO.6』シリーズは、コミカライズ、アニメ化された。児童文学から時代小説までさまざまなジャンルの作品を執筆し、幅広い世代に親しまれている。

【『NO.6』シリーズ】
度重なる戦禍で壊滅状態の近未来の世界で人類滅亡の危機に瀕(ひん)した人々は最後の希望を託し、6つの『人工都市』を建設。安定した食料供給、充実した医療設備や教育制度……。
6つ目の人工都市『NO.6』、別名『聖都市』では、“市当局”が管理する高い壁のなかで、何にも怯(おび)えることのない安全な暮らしを保証されていた。その実態は、理想とはかけ離れた“知能”によってランクづけられた“市当局”による完全な管理社会。人々は、ランクによる差別を受けるとともに、『NO.6』への忠誠を強制される。忠誠心がないと判断されれば、生きて出ることはできないといわれる強制施設へ。逃げ場のないディストピア——それが『NO.6』。

この『NO.6』を舞台に、最高ランクのエリートの少年・紫苑と、NO.6外のスラム地区に住む少年・ネズミの出会いをきっかけに、2人はNO.6の真実へと挑み、NO.6を崩壊へと導いていく。そしてNO.6シリーズ最終話から14年――再び『NO.6』の物語が幕を開ける。

【『NO.6 再会』特設サイト】
【公式X】

写真・取材・文:entax編集部

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