【前編】「それって言い訳じゃない?」あさのあつこがネズミを一刀両断! NO.6に戻ってきた“本当”の理由とは?欠落の痛みを描く“再会”の物語『NO.6』【独自インタビュー】
シリーズ累計240万部超え、少年たちの友情を超えた思いを描いた近未来SF小説シリーズ『NO.6』。entaxでは、作者・あさのあつこに独自インタビュー。小学6年生のときに『NO.6』に出会い世界観に魅せられ、14年ぶりのシリーズ再始動に涙した記者だからこそ聞くことができた、『NO.6』にまつわるファン目線の質問、そして最新刊のポイントを前後編に分けてたっぷりとお届け。前編では、主に紫苑とネズミが再会するまでの物語に注目。『NO.6』シリーズで描かれてきたネズミと紫苑の行動を、改めて紐(ひも)解いてゆく。
※最新刊『NO.6 再会 #3』までのネタバレを含みます
『NO.6 再会 #3』
崩壊した理想都市の瓦礫(がれき)から新都市をつくる、真っ直ぐな少年たちの熱い戦いの物語。
過酷な荒野を生き抜くネズミと、新国家の再建に挑む若きリーダー・紫苑。“NO.6”を狙う陰謀とともに荒野の圧倒的な美しさと、人間の業の恐ろしさが描かれる本作。刺客の襲撃を逃れ、ついに紫苑たちの元へ帰還したネズミ。そこで明かされたのは、残酷な真実だった。すれ違い、激しくぶつかり合いながらも、逃げずに共に戦うことを誓う2人。新たな戦いが今、幕を開ける。

|激動の2001年を紫苑の生まれ年に
――2003年に第1巻が発売、物語の世界は2013年の紫苑の誕生日から幕を開けましたが、2003年当時に近未来を描く上で、舞台を10年後に設定したのはなぜでしょうか
あさの:“10年後に設定した”というのは違っていて、紫苑を2001年生まれにしたかったんです。
当時、2013年ははるか未来のような気がしていて。2001年に9.11(アメリカ同時多発テロ事件)があって、「この世界はどう変わっていくんだろう?」という不安がすごくあった年だったので、その時代に彼が生まれてきた設定にしたいと思いました。たださすがに誕生日が9月11日はないなと思って、9月7日にしました。
――紫苑は幼い頃からエリート教育を受けていたにもかかわらず、なぜ“窓を開ける”衝動に駆られるような人間性になったのでしょうか?
あさの:境遇や、火藍(からん)や沙布(さふ)を含めた周りとの関係からあのように育ったのではなく、彼は“持ってた”んですよ。元々あの衝動があった。12歳の少年が、何ひとつ憂いを感じ取れないような完璧な境遇の中で、それでも彼は叫ばざるを得なかったんだろうなと私自身は理解していて。紫苑の「正体」――ネズミは「得体の知れない」と表現していますが、たぶん彼の中には、破壊衝動も含めてそういうものがあって、それが彼の核心にあるものではないかと思ってます。
――「おやすみのキス」(#3)について、当時の紫苑は芸術にも、性的なことにも疎い印象ですが、なぜここで初めて出た紫苑の究極的な感情表現が、抱きしめるでも、握手でもなくキスだったのでしょうか?
あさの:あのとき、彼は「もしかしたらもうネズミとは生きて会えないかもしれない」みたいな覚悟があったと思うんですよね。そう考えたとき、ほかの選択肢が私にはなくって。抱きしめるとか、感謝の言葉をしっかり伝えるとか、伝え方は色々ありますけど、なんかそれじゃないなと。だから「なぜ?」と聞かれるとすごい難しいんですけど…。たぶんあのときの彼にとって、ネズミに対する究極的な気持ちの表し方は、あれしかないだろうと思います。
|ネズミは、“甘さ”を言い訳にしない
――「あんたと沙布を利用した」(#8)「おれの戦いに巻き込んだ」(再会#2)という言葉から、強い罪の意識が伺えます。ネズミにとっては「紫苑を復讐(しゅう)に利用した」こと、それだけが真実なのでしょうか。それとも、紫苑のために沙布を助けるという目的もまた“真”だったという認識でよいのでしょうか?
あさの:強制施設はNO.6の全てが詰まっている施設ですから、紫苑の力を借りなければ戦えないというのを、ちゃんと彼はわかっていた。だからそういう意味で“利用した”と、彼は認識していると思うんです。ただ、それはすごくシビアな(感情の)部分。彼はそういう部分を自ら引き受ける癖があるので…。
“甘い”という言葉は違うかもしれませんが、やっぱり紫苑を助けたいとか、望むなら沙布の救出をかなえてやりたいとか、そういう部分も必ずあったはずなんです。でも彼は、それを言い訳にはしない。ネズミならそうだろうなとは思うんですけど…、若いなぁと思いながら書きました(笑)もうちょっとうまく立ち回れば…、本音を言えよ!みたいな(笑)
――紫苑もネズミも、お互いに対してかっこつけてるところがありますよね(笑)
あさの:そうそう!(笑)2年前は16歳だから仕方ないんでしょうけど、自分の本音がわかりきっていないところがあったんだなと、『再会』を書いてみて思いました。
――『再会』で18歳になった2人は、自分の本音を認識できるようになってきた?
あさの:やっぱり2年間離れていたこと、その間にそれぞれ全然違う人生を歩んできたことで、このままいなくてもいい相手なのか、いなければいけない相手なのかということが、ちょっとずつわかってきたんだと思います。紫苑は2年前の時点でちゃんとわかっていたんですけど、ネズミはネズミなりに2年ですごく考えてきた。本当は離れたいけれど、離れていい相手でも離れられる相手でもない、じゃあどうするか?っていう。
――考えた結果、NO.6に戻って1か月、フラフラしていたネズミですが…(笑)
あさの:フラフラしやがって!みたいなのありましたね(笑)
――その1か月という時間が、「紫苑をあなたから奪ってもいいか」(再会#2)という言葉に至るために必要な時間だったのでしょうか?
あさの:そうですね。もちろん実質的には、今のNO.6がどういう状態か、“不穏な動き”がどういうものか、知らなきゃいけないですし。あとは、マオの森がこれから大きな意味を持ってくるんですが、彼がマオの森にいたのは割と意味があったり…。なんやかんやの1か月ではあるんですよ!だからネズミ側に立てば「俺には俺のやることがあるんだよ!」みたいな(笑)
でも1番の理由は、もうちょっとだけ、自分の中で整理をつけたかったからだと思います。NO.6に帰ってきたけれど、知ってることや疑ってること、全部を抱えたままの自分で、すぐ紫苑に会いに行くことはできない、っていう。来懼(らいく)のことだとか、彼は色々と理由をつけるでしょうけどね(笑)
――もしあのタイミングでマウラと共にしていなければ、再会までもう少し時間がかかっていたかもしれませんね
あさの:そうですね。NO.6が平穏で、紫苑もそれなりに生きているということがわかっていたら、もうちょっとネズミは耐えられたんじゃないかなと思いますけど…。でも私は、紫苑は2年がギリギリだろうなと思ってました。2年を過ぎた場合、彼はどうするのか…。やみくもにネズミのあとを追うのか、それとも別の形で自分を抑えるのか、ちょっと答えが見つからないんですけど。だから逆に、2年でどうやったらネズミを紫苑のもとに帰せるんだろうということを考えました。
ネズミは紫苑と再会して“幸せになりたい”“解放されたい”とか、そこまでは考えてないと思うんです。耐えられるか、耐えられないかというところが重要なので。紫苑も同じで、ネズミといて“幸せになりたい”“未来でどうしたい”とかではない。そういうところで2人とも生きているので、だからこそこのタイミングで帰らなきゃいけなかったんだろうと思いました。知らなかったら自分のどこが欠落しているか気づかずに済んだんでしょうけど、出会ったことで、知ってしまったことで――そして別れたことで、欠落部分をよりリアルに、痛みとして感じてくる。そのあたりを描く物語でもあるかなと思います。
――『再会』でネズミがNO.6に戻ってきたのは、紫苑の身に危険が迫ったこと、NO.6がよみがえることを赦さないという2つかと思いますが、どちらの側面がネズミにとっては比重が大きいのでしょうか
あさの:もちろん2つあると思うんですが、私は「それって言い訳じゃない?」と、書いていて思いました。要するに、帰るために理由がいるんだよね?って(笑)
――確かに、思ったよりも抵抗せずマウラの提案に乗ったなという印象を受けました
あさの:そう。あそこで留まろうと思えば留まれたわけで。NO.6がよみがえるのがすごく嫌だ、“紫苑を守りたい”という思いもあるとは思いますが、でもそれは“他”のことであって、ネズミ自身のことではないじゃないですか。だってNO.6や紫苑がどうなろうと、自分はもう離れたところにいるから関係がないわけで。西ブロックで暮らしていたときとは違うし、一旦彼の復讐は叶えられた。叶えられたからこそ、そのあとの虚しさみたいなものを彼はちゃんと知っているわけですし。それでも放っておかなかったんだから…、やっぱり言い訳じゃないかな?(笑)
自分自身への言い訳ができたということと、さらに言えば、たぶんNO.6を出たときから思っていたとは思うんですけど、いつか紫苑をNO.6から引き剥がさなくちゃならないっていうことが、より鮮明に自分の中で見えてきたのが理由かなと思います。
――「引き剥がさなくちゃ」というのは紫苑が紫苑でなくなるということに対する恐れからでしょうか?
あさの:私も、ネズミ自身もうまく説明はできないんですけど…。本能的に“それ”を彼は感じていて。引き剥がせるのはたぶん自分だけだという自負もあるので。だから、ある意味覚悟を決めて帰ってきたところがあると思います。
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後編は、裏話が盛りだくさん!『再会#1』で紫苑がネズミの髪ゴムをとる描写は、最初はなかった?このシーンに込められたあさのあつこの熱い思いとは?ネズミの本名にまつわる話も…!さらに、“作家・あさのあつこ”がどのように物語を書いているのか、書く原動力についても聞くことができた。
《インタビュー後編は明日17:00に公開!》
【あさのあつこ Profile】
岡山県生まれ、在住。大学在学中より児童文学を書き始め、小学校講師ののち、1991年『ほたる館物語』で作家デビュー。1997年『バッテリー』で第35回野間児童文芸賞、2005年『バッテリーⅠ~Ⅵ』で第54回小学館児童出版文化賞を受賞。『NO.6』シリーズは、コミカライズ、アニメ化された。児童文学から時代小説までさまざまなジャンルの作品を執筆し、幅広い世代に親しまれている。
【『NO.6』シリーズ】
度重なる戦禍で壊滅状態の近未来の世界で人類滅亡の危機に瀕(ひん)した人々は最後の希望を託し、6つの『人工都市』を建設。安定した食料供給、充実した医療設備や教育制度……。
6つ目の人工都市『NO.6』、別名『聖都市』では、“市当局”が管理する高い壁のなかで、何にも怯(おび)えることのない安全な暮らしを保証されていた。その実態は、理想とはかけ離れた“知能”によってランクづけられた“市当局”による完全な管理社会。人々は、ランクによる差別を受けるとともに、『NO.6』への忠誠を強制される。忠誠心がないと判断されれば、生きて出ることはできないといわれる強制施設へ。逃げ場のないディストピア——それが『NO.6』。
この『NO.6』を舞台に、最高ランクのエリートの少年・紫苑と、NO.6外のスラム地区に住む少年・ネズミの出会いをきっかけに、2人はNO.6の真実へと挑み、NO.6を崩壊へと導いていく。そしてNO.6シリーズ最終話から14年――再び『NO.6』の物語が幕を開ける。

