地上波初登場『竜とそばかすの姫』今だから語れる裏話 プロデューサー単独インタビュー

2022.9.22 21:00

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日本テレビ系「金曜ロードショー」と、entaxがコラボレーション。明日9月23日は2021年の大ヒット映画『竜とそばかすの姫』を本編ノーカットで地上波初放送。公開から1年、改めて今作品の制作秘話と多くの人を引きつける魅力について、細田守監督を支えたひとりである谷生俊美プロデューサー(日本テレビ)にentax取材班が聞いた。

■こだわりが貫かれた桁違いのプロジェクト

――『竜とそばかすの姫』はこれまでの細田守監督の作品と比べて、特にどんなところが大変だったのでしょうか?

谷生 一番違うのは、CGの量がものすごく増えていることです。高知のシーンは全部手書きのアニメーションで、“U”の世界は基本的にCGなんです。そこまではっきりコンセプトを分けて作ったことはなかったと思うので、それはすごく新しいチャレンジでした。手書きアニメーションとCGはまったく見え方が違いますから。

あとは音楽ですね。普通の映画は多くの場合、劇伴作家が基本的に1人で作るんです。でも『竜とそばかすの姫』に関しては、音楽監督を岩崎太整さんという、1人で映画音楽を何度も手掛けている超一流の音楽家が務め、さらに坂東祐大さん、Ludwig Forsellさんが加わり、3人で音楽を担当したんです。その規模もさることながら、1週間ものフルオーケストラ収録を行うなど、日本でそんなリッチな映画があるのか、というほど、すべてが桁違いのものになりました。さらに、メインテーマはmillennium paradeを率いて常田大希さんが制作、という超豪華布陣です。

――音の世界を作るにあたって、細田監督はどんなことをおっしゃっていましたか?

谷生 細田監督は「Uは国、民族、宗教を超えた50億人以上のありとあらゆる人たちが集まる場所なので、多様性を反映するものでなくてはいけない」とずっとおっしゃっていて。そのコンセプトがまずあり、音楽監督の岩崎太整さんが、いろいろな音楽家を呼び、それぞれ得意分野を分担する、“音楽村”というコンセプトを提示したんです。監督はその案を非常に気に入って。

たとえばオーケストレーションが得意な坂東さんは、オーケストラの竜が逃げるシーンの弦の音楽を担当したりとか、少しゲームぽいシーンはゲーム音楽を多く手掛けたLudwig Forsellさんだったり、メロディアスなボーカルものは岩崎さんが作っていたり。だから大変ではあったんですけれど、そのコンセプトはおもしろいし、結果としてすばらしい相乗効果になって、皆さんに受け入れていただける、1つの大きな要素になったんじゃないかな、と感じています。

――細田監督とお仕事をしていて、これはすごいなと思われた場面は数えきれないと思うのですが、特に監督のこだわりを感じられた思い出を教えていただけますか?

谷生 アフレコでの出来事ですね。主役のすずを演じる中村佳穂さんと親友のヒロちゃんを演じる幾田りらさんは、声優のお仕事は初めてだったんです。お2人とも最初から上手なんですけれど、前半に録ったものと後半に録ったものを比べると、明らかに後半にレベルが上がっているのが分かって。初挑戦だった分だけ、役に馴染んでいく過程で非常に成長されたんですね。それで一通り録り終わり、1回すべてをつないだものを聞いた細田監督が、「全部、録り直す」と言いまして…。

――ええっ! 全部ですか?

谷生 それはさすがに驚きました。でも、最終日にコントロールルームから指示を出している監督の姿は、本当に鬼気迫っていて。本当に納得できるものを出すまでは、絶対にあきらめない凄みを感じて痺れました。結局、録り直したことが、すごく良かったんです。

――クオリティを突き詰めるためなら、決して妥協はしないということですね。

谷生 監督というのはそういう人種なんですよね。あと小さい頃のすずが「かあさん! かあさん!」と叫ぶシーンがあるのですが、あれも実は、想定していた子役ではない子が、別の音を録る時に来ていて。泣いてみてもらったら、とてもうまかったので、「この子にやってもらいましょう」となって、キャストを柔軟に変えたりして。

もちろんそういったことは他の現場でも普通に行われていることだと思いますけれど、アフレコ現場での監督の天才的な演出術には、感嘆しました。うまく役者を導いていって、いい演技を出していかれるんです。それは本当にすばらしい、と思いました。

でも録り直すからといって、スケジュールは決して遅れない。基本的に細田さんはスケジュールを守られる方で、その点もすごいと感じています。

■時代を先取りする監督の力を改めて知った

――細田監督とお仕事をされていて、意外だなと思われた面はありますか?

谷生 今回、スペインの映画祭に参加し、フランスとドイツにはキャンペーンで行ったんですけれど、結構パリの滞在期間が長かったんです。ホテルに泊まっていたら、朝のビュッフェのメニューにおみそ汁があって。私は1回くらいしか飲まなかったんですけれど、細田監督は毎朝飲んでいらしたので、「やっぱり日本の食事は落ち着くのかな」と思いました。どうしても向こうの食事が続くので、取材日の時にお昼を用意する際は、お弁当やおむすびを買っておくようにしましたね。

――『竜とそばかすの姫』は国内の大ヒットはもちろん、海外でも人気になりました。

谷生 フランスで完成披露があったのですが、ヨーロッパで一番大きい約2,500人収容できるレックスという最大の劇場で行われました。当時はコロナ禍のまっただ中でしたけれど、会場は超満員。司会が監督を呼び込む時の熱狂は、すさまじいものがありました。

――日本と海外、反応の仕方は同じだったのでしょうか?

谷生 重なっているところもあるし、まったく違うリアクションをするところもありました。1つおもしろいなと思ったのが、カミシンとルカちゃんが駅で鉢合わせするコミカルなシーン。海外のお客さんは「あはは!」って声を出して笑うんですよ。スペインもフランスも、アメリカでもそうだったらしいです。そこは日本のお客さんよりも、より感情を出すんだな、と分かりました。

実はあのシーンは、細田監督が“どういう効果音を入れるか?”にすごくこだわって作られたんです。いろいろな試行錯誤があったんですよ。たとえば電車を発車させてみたりとか、車が走る音にしてみたりとか、いろいろ当ててみて、「やっぱりこれですね」となったのが、鳥の鳴き声。それを入れることによって、シーンのおかしみがより出るんです。監督の要求を満たすために、音響さんも大変そうでした。あのシーンは音楽も絵の手間もすごくかかっていて、海外では非常にそこに反応してくれたんです。

――映画公開から1年経ちますが、どんなことがありましたか?

谷生 昨年、高知キャンペーンに行くはずだったのですが、コロナ禍で中止になってしまったんです。今年こそ行こうとなって、地元の放送局がずっとわれわれの密着をしてくれたんですね。その中でカミシンとルカちゃんが駅で鉢合わせするシーンのリアルの場所を見に行くというイベントがあって。そうしたら地元高知の演劇部の女子高校生たちが、見学が終わって帰ってきた監督の前で、カミシン、ルカ、すずのシーンをそのまま再現する芝居を始める、というサプライズをしてくれていて。それは細田監督もとても感動されていました。

――今だから感じる『竜とそばかすの姫』という作品のすばらしさというのは、どういった点だと思われますか?

谷生 『サマーウォーズ』で仮想空間OZを描き、行政のサービスが全国どこでもネット上で受けられますというのはまだ実現していなけれど、今はかなりそれに近いものが実現しつつある社会になっています。

それと同じように『竜とそばかすの姫』で書かれているUはメタバース的な世界なんですけれど、まさにこの映画が公開された少しあとから日本でもメタバースが広く知られるようになりましたよね。『Facebook』が『Meta』と会社の社名を変更するといったニュースもありましたし。時代を先取りしているというその先進性が改めて証明されて、細田監督のすごさを感じました。

「金曜ロードショー」と細田守監督作品のつながりはこちら

【谷生俊美Profile】
日本テレビ グローバルビジネス局 映画事業部主任 プロデューサー。2012年から「金曜ロードSHOW!」プロデューサーを務め、2018年より現在の部署に異動。『竜とそばかすの姫』が初映画プロデュース作品となる。

9月23日(金)よる9時00分~11時24分(日本テレビ系にて放送枠30分拡大)
2021年の大ヒット作『竜とそばかすの姫』を本編ノーカットで地上波初放送

『竜とそばかすの姫』(2021)
原作・脚本・監督:細田守  企画・制作:スタジオ地図
音楽監督/音楽:岩崎太整   音楽:Ludvig Forssell 坂東祐大
メインテーマ: millennium parade × Belle 「U」
声の出演:中村佳穂 成田 凌 染谷将太 玉城ティナ 幾田りら 役所広司 佐藤 健

©2021 スタジオ地図
文&取材:entax編集部

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