「戦争を体験していない者が残された言葉や記憶を受け継いで、その意味は何かを考えることはとても大切」『第10回澄和Futurist賞』受賞者発表

2025.11.6 12:15
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平和と自然との調和を願う一般財団法人澄和(とわ)が主催する『第10回澄和Futurist賞』の受賞者が発表され、小説家の浅田次郎、現代美術家の奈良美智、原爆の図 丸木美術館が受賞。Next Futurist奨励賞にはアーティストの瀬尾夏美が選ばれた。10月27日に東京會舘で表彰式が行われた。

澄和Futurist賞は「非戦・平和関連」「環境保護」「社会貢献」などの分野で長く活動に取り組む個人・団体を表彰するもので、毎年10月8日を「澄和の日」と定め、受賞者を発表。過去には俳優の吉永小百合や、歌手のMISIAなどが受賞している。 選考は村石理事長を委員長とする選考委員会で行われ、受賞者には表彰状と副賞100万円が贈られる。

今回受賞した浅田次郎は『鉄道員(ぽっぽや)』などの作品で知られる小説家。歴史小説から現代小説まで幅広いジャンルで作品を発表する一方で、早い時期から戦争文学にも力を注ぎ、ペンの力で平和を希求し続けている点が評価された。

浅田は「私は昭和26年(1951年)生まれで戦争を全く知りません。先人たちのご苦労によって、私たちの世代は高度経済成長の中で恵まれて育ってきました」と述べた上で、「戦争小説を書くことは大変おこがましい話ですが、できるだけ正確に戦争小説を書いていこうと考えています」と語った。

現代美術家の奈良美智は、少女や動物をモチーフとした独自の絵画や造形作品で国際的に高く評価されている。『NO WAR』『NO NUKES』など反戦や脱原発をテーマにした作品でも知られ、アーティストとしての表現を純粋に追い求める中で、継続的かつ率直に反戦・平和への思いを表してきたことが選考理由となった。

奈良は「私の場合、他者に向けて表現するというより、いつも自分自身の中で問い、答えを探し、その答えのようなものが作品になっています」と制作について明かした。さらに「昔から母親に“真面目にやっていればどこかで誰かがきっと見ている”と言われてきました。本当に見ている方々がいて、選んでもらえたのだなと思います。母はまだ95歳で元気なので、この後電話したいと思います」と温かい言葉で締めくくった。

また、団体として選ばれた原爆の図 丸木美術館は、故 丸木位里・俊 夫妻が原爆投下直後の広島を描いた『原爆の図』を58年にわたり展示。原爆の図は初期作品の完成後から全国170か所以上の巡回展が開催され、その後はアメリカを含む世界20か国以上でも展示されるなど、他に類を見ない規模と内容で訴える反戦メッセージが高く評価されている。

原爆の図 丸木美術館からは専務理事の岡村幸宣氏が登壇。「被爆から80年という時間の経過の重みを今年はとりわけ強く感じています。人の一生分の時間が流れ、直接体験を伝えることのできる人が、本当に少なくなっていることを実感せざるを得ません」と語った。また「体験していない者が残された言葉や表現、記憶を受け継いで、その意味は何かを考えることはとても大切」と継承の重要性を強調。「人間の命は限りがありますが、芸術表現はその命を超えて世界に大きな影響をもたらします」と述べた。

さらに、Next Futurist奨励賞を受賞したアーティストの瀬尾夏美は、東日本大震災でのボランティア活動をきっかけに、被災した人々に寄り添い、その記憶を後世に残す活動に取り組んでいる。数百名の語り手に話を聞き、それを文章や絵画、映像といった様々な表現で伝えている点が評価された。

瀬尾は、東日本大震災以降の被災地での活動について「災害や戦争など、傷を負った人たちに向き合うことが多いです。彼らは痛みを語ることで傷が痛んだり、苦しい思いをしながら語ってくれることがあります」と説明。「受け取った記憶や思いの重さにたじろぐこともあるんですけど、話してくれることで彼らが未来のより良い社会につながっていくことを望んでいる、私たちのことを思って語ってくれることで温かさや優しさを受け取ってきました」「この輪に1人でも多くの人が参加して、輪が広がっていってほしい」と願いを語った。

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